10月14日(水)朝日新聞東京版朝刊18面・新聞週間に寄せて

数学者 藤原正彦さん(77)   正しく選び 生きる情報

近頃の若い人は新聞を読まなくなった。ではどこで情報を得ているかといえば、
インターネットだという。しかし、それではいけない。たしかにネットには無限の
情報があるが、99・999%はそのままでは何の役にも立たない情報だ。21世紀に
生きるわれわれは、常に情報の洪水の中でおぼれかけており、大量のジャンクの中から
どの情報を選択するかが非常に重要になっている。正しく選択してこそ、情報は生きる。

その手伝いをするのが、新聞だ。新聞は世界に無限にある情報の中で、何が本質的な
ものかを示し、正しく方向付けてくれる。それ自体では単なるジャンクに過ぎない
個々の情報もこの過程を経ることで、正しい知識として読者が摂取できるものになる。
新聞で身に付けた知識を読書によって組織化して、教養にまで高める。この段階を
踏むことで、初めて大局観が生まれる。そして大局観がなければ適切な選択はできない。

個々人が大局観を持たなくても指導者がきちんと判断してくれればいい、と思う人も
いるだろう。だが賢人の独裁が最も効率的だとしても、理想的独裁者を選ぶ方法を
人類は持っていない以上、欠陥はあるが民主主義に頼るほかない。民主主義とは
つまるところ国民の多数決なのだから、政治家を選ぶ国民一人一人の大局観が重要に
なる。新聞と活字文化は、そのために必要だ。

コロナ禍のいま、テレビでは恐怖をあおる番組も散見される。だが新聞は冷静な統計を
示し、理性的姿勢を促すことができるメディアだ。テレビやネットとの違いをもっと
出していってほしい。