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(続き)

戦争に反対でも

プロジェクトが意識したのは、鹿児島県南九州市知覧町の「成功」だ。陸軍特攻基地跡
に立つ「知覧特攻平和会館」の来館者は昨年度で約38万人。一方、大津島の
「回天記念館」は約1万5千人。「知覧の特攻のように英雄イメージが確立していれば、
加害性や非人間性を切り離して観光地化できるのでしょうが……」。周南市の担当職員
は悩ましそうだった。

犬死にか、英霊か。無駄死にか、崇高な犠牲か。

長い間、特攻をめぐっては鋭い対立があった。だが福田さんは、そんな対立の外側に
いた。「特攻を美化するつもりはありません。ただ彼らは当時、彼らなりに最善の
選択をしたはずで、『かわいそう』だけでは申し訳ない。『ありがとう』という
気持ちで、今を生きる自分に何ができるかを考えなきゃいけないと思います」

素朴で、まっすぐで。近年、同様の言説が世にあふれ出しているが、たぶん、
「右傾化」とは違う。

じゃあ、何だろう?

井上義和・帝京大准教授(教育社会学)は、歴史認識の「脱文脈化」だと言う。戦争の
安易な総括を許さない戦争体験者が減り、戦争には反対だが特攻死には感謝する
「知識と感情の分離」が起きているとみる。「特攻をめぐる対立軸はもはや国家対個人
ではなく、感謝する人と認めない人の断絶というかたちをとっています。感謝は『命の
バトンを受け継いだ』という一種の使命感を伴っていて、権力に利用されるとやっかい
です。感謝自体を否定する『犬死に』論や美化批判では、太刀打ちできません」

(続く)