(>>76の続き)

このドラマが描く直虎の歩みは、だが一国平和主義ではない。武田と徳川が今川攻めを
画策するなかで、直虎は戦そのものを未然に回避しようと徳川に積極的に働きかけている
(真正の積極的平和主義)。この企ては失敗するが、徳川方につくこととなった直虎は、
徳川の使者に対し、城は明け渡すが兵は出さないと伝える。それでは新たな土地の安堵は
できぬと言う使者に、直虎は「井伊のめざすところは民百姓一人たりとも殺さぬことじゃ」
と宣明する。誠実に希求すべき「国際平和」(9条1項)は、つきつめれば、敵味方をこえて
「民百姓一人たりとも殺さぬこと」以外にはない。

領主としての井伊家がいったん潰れた後も、直虎は、例えば井伊谷に侵攻する武田軍と
戦おうとうする領主に翻意を迫るために策を講じる。当時農民は戦時には兵力として
駆り出されていたが、直虎は、領内の全農民に「逃散」を促すことで、主戦論の新領主を
断念させた。

兵力が存在しなければ戦はしたくてもできない。この逸話は「前項の目的(戦争放棄)を
達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とする9条2項のまったき
具現化である。

  (続く)