3月2日(金)朝日新聞東京版朝刊オピニオン面・社説余滴

野上隆生(社会社説担当)  名護の逆格差論、再評価を

「辺野古の海にも陸にも基地は造らせない」と、時の政権と対峙し続けた沖縄県
名護市長の稲嶺進氏が、政権の支援を受けた渡具知武豊氏に敗れた市長選から1カ月。
退任式での稲嶺氏の言葉と市民の姿が、いまも忘れられない。

公約に掲げた米軍基地再編交付金に頼らない街づくりについて、稲嶺氏は敬意と感謝を
込めて市職員に語った。

「皆さんはアンテナを高く張り巡らし、知恵と情熱、情報とネットワークを駆使し、
財源をかき集めて、様々な事業を展開してくれました」

再編交付金は、在日米軍基地再編の進み具合に応じて国が自治体などに交付する
「基地マネー」の一つ。基地建設に協力した見返りだ。

名護市は稲嶺氏が初当選した8年前に交付を打ち切られた。だが稲嶺市政は基地のない
全国の自治体と同様、他の制度を探し、工夫して、予算規模を伸ばしてきた。

「再編交付金は毒まんじゅう。一度口にしたら、地方自治が国に蹂躙される」と解説
してくれた市幹部もいた。

退任式で稲嶺氏は、集まった大勢の市民から「名護の市民でよかった」「進さん、
ありがとう」と声をかけられ、抱えきれない花束に埋もれ、再度は胴上げまでされて、
市役所を去った。

  (続く)