11月27日(月)朝日新聞東京版朝刊国際面”風 ワシントンから”

沢村亙(アメリカ総局長)   トランプ氏生んだ「市民対市民」

愛国心が惜しみなく称揚されるすぐ傍らで、不正義が糾弾される、不思議な光景といえた。

先日観戦したアメリカンフットボールのプロリーグ戦。まずスタジアム中が起立して国歌を唱和し、
合間には招待客のイラク帰還兵が「わが町の英雄」として誇らしく紹介される。

一方、フィールド脇では国歌斉唱中に片ひざをついたり、拳をあげたりする選手がいる。
相次ぐ警官による黒人射殺などに抗議して昨夏から黒人選手らが始めた「実力行使」である。

政治の中枢ワシントンでも様々な街頭抗議が連日、繰り広げられている。デモや集会だけでは
ない。動画を建物に映し出したり。ビラを括り付けた風船を飛ばしたり。社会派アーティストを
名乗るナディンさんはその指南役の一人だ。「戦略的にメッセージを伝えるには想像力と
ユーモアが必要」と説く。

公民権運動、ベトナム反戦から反グローバル運動まで、米国の抗議運動の歴史は長い。
スポーツも例外ではない。1960年代、メキシコ五輪では黒人選手が表彰式で拳を挙げ、
モハメド・アリは徴兵を拒んだ。

だが、この1年間、女性や同性愛者の権利向上、移民・難民への連帯から、気候変動や
科学予算の削減撤回まで、ありとあらゆる論争が噴き出した観がある。「ここまでテーマが
多様化したのは異例」とイリノイ大学のヒーニー助教(社会運動)。

  (続く)