【産経抄】マフィアもあきれる非道 10月4日

 ラスベガスを語るのに欠かせないのが、「バグジー」(虫けら)のあだ名を持つギャング、ベンジャミン・シーゲルである。1940年代、ニューヨークのマフィアから送り込まれた小さな田舎町に、大きな可能性を見いだした。

 ▼仲間から資金を集め、カジノを併設した大型ホテルを開業したものの、さっぱり客足が伸びない。まもなく愛人宅で射殺される。資金が回収できないとみた、マフィアの仕業とみられる。皮肉なことにシーゲルの死後、ホテルの経営は上向いていく。

 ▼ラスベガスはマフィアに牛耳られながら、ギャンブルの街として発展していく。80年代に入ると、そのマフィアも一掃され、治安も格段によくなった。現在では、年間観光客が4000万人を超える、家族で楽しめる街に生まれ変わった。

 ▼その中心街にある屋外コンサート会場におびただしい数の銃弾が撃ち込まれ、59人が命を失った。逃げ惑う観客をあざわらうような犯行は、マフィアも顔負けの非道である。米国での史上最悪の銃乱射事件は、観光都市のイメージに大打撃を与えそうだ。

 ▼自殺した容疑者(64)と過激組織との関係は不明だ。連日大金をつぎ込んで、ギャンブルに興じていたとの報道もある。動機が何であれ、事件を引き起こしたのは、銃が簡単に手に入る社会の構造である。さすがに銃規制を求める声が強まりそうだ。

 ▼もっとも、武器を保有する権利を保障する憲法と、強力な政治力を持つ全米ライフル協会(NRA)が、その前に立ちはだかる。NRAは銃乱射事件が起こるたびに、むしろ自衛のために銃が必要だ、と主張してきた。
何百メートルも離れたホテルの32階から無差別に撃ち込まれる凶弾に対して、銃が守ってくれるはずがない。

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