「達人王やっかぁ」
上着を脱ぎ捨てると、縦じわでよれよれのワイシャツを整えた。筐体の前に立ち股を開く。
既に前袋を濡らし、シューティング界のエベレストは俺のプレイを待つ。
身体を横にしてランキングに目を移すと、一周クリアを目指し散っていった、プレイヤー達のハイスコアがそこにあった。
「俺のワンコイン一周クリアだぜ」声に出していう。
「男はやっぱ東亜シュー」
やおら財布の脇から、ズルムケ状態の仮性包茎100円硬貨を投入する、手にオイルをたっぷり取り、逆手でレバーをこね回す、
「ドカッ、ボカッ」爆発音が俺のシューター中枢を更に刺激する。
「達人王たまんねぇ」扱きに合わせて、自機を上下させる。
「男の達人王にゃあこれだよ」ラッシュを吸い込む。
「スッ、スッ、スッ、スッ」顔から熱くなり、やがて頭の中が真っ白になる。
「張り付き、出現即破壊」「緑と青は地雷」
頃合いをみて3ボスの半安置に入り込む。俺は自機のデカい当たり判定が好きだ。
地上敵の残骸だけが画面に残り、ノリノリの東亜節をバックに、スピード最速で、敵弾を大きく避け、決めボムを放ち、ナパームでヌルヌルと中型敵に撃ち込む。
ゲーセンの中の俺は、日本一の達人王おじさんになっていた。
「ちきしょう誰かに見せてやりテェよ」STILL LOVE YOUが流れ出すと、いつもそう思った。ラッシュをもう一度効かせ、オイルを追加すると、一周クリアへ向かってまっしぐらだ。
「王になってやる」「達人を超えたほんまもんの王」
「うりゃ、そりゃ」「ズキューン、ブチューン」5面の鬼畜敵配置を抜けながら、6面をめざす。
「たまんねぇよ」ギャラリーの奥から、激しいうねりが起こった。やがて奔流となり、俺を悩ます。
-クリアしてぇ- -もう残機がねぇ-相反する気持ちがせめぎあい、俺はラスボスに挑む。
「きたっ」俺は膝を直角に曲げ、それに備える。奔流は堰を切ろうとしていた。
「ドッカーン!」「CONGRATULATIONS!」
ラスボスの轟沈を押し分けて、クリアメッセージがしゃくり出される。
真っ白い時間に浸る間も無く、二週目がいきなり始まる。