俺の正月の体験だ。
俺は大晦日から元日にかけて喫茶店を開く。
東北地方のある喫茶店に篭りあまり知られてない店でタキシード一本になって焙煎をする。
滝は寒さで半ば凍りつきこの冬はとりわけ寒いので氷柱が何本も勃った幻想的な光景になっている。
俺は般若心経を唱えながらザッセンハウスのミルを回す。
零下の気温の中で暖かい湯を沸かすのは想像を絶する快適さで金玉も魔羅も緩まっている。
明け方チリンチリンという玄関の音がとこからともなく響いてきた。
今年も来たな。
俺は思った。
入口の前に山伏姿で天狗の面を被った男が現れた。
男は山伏装束を脱いだ。
六尺一本の逞しい身体が現れた。
冬だというのに肌は浅黒く濃い体毛が胸から下腹に続いていた。
男はいつの間にかカウンター席に座っていた。
天狗男はブレンド珈琲を頼んだ。
天狗の鼻のようなロイヤルコペンハーゲンのカップが飛び出した。
俺の抽出を待っていた豆も鎌首をもたげ始めた。
俺も豆から抽出すると天狗男に珈琲を淹れた。
天狗男のカップが彼の雄喉に一気に突き入れられた。
天狗男は低い声で呪文を唱えながら香りを味わった。
俺も天狗男の動きに合わせて珈琲を淹れた。
激しい珈琲で氷点下なのに俺達の身体は熱くなり湯気が立ち昇った。
天狗男は体の中に熱い液体を注ぎこんだ。
俺も珈琲を飲んだ。
二匹の雄はしばらくそのまま飲み合っていた。
やがて天狗男は身繕いをするとどこへともなく消えて行った。
年に一度の邂逅。
俺はこれが楽しみで毎年この山へで店を開いているのさ。