スナック好きも前田の受け売りか


■SHOWROOMの本質はスナック

―先月末に出された本『人生の勝算』を読んで、まず意外に感じたのが、「スナックが好き」という話でした。スナックといっても、お酒を飲むほうの。

前田 ええ。僕は地方出張に行くと必ず現地のスナックに寄るし、行きつけのお店もありますよ。スナックというと、地元のおじさんたちが集う寂れた場所
っていうイメージがあるかもしれませんが、僕は「スナックはすべてのコミュニティビジネスの根幹なのではないか?」と思ってるんです。

―どういうことですか?

前田 まず、スナックでは特に珍しいお酒も出ないし、つまみも市販の乾き物くらいしかないですよね。でも、お客さんはお酒や食べ物といった「モノ」を
消費しに来るんじゃなく、ママとの人間的な「つながり」を求めて来るんです。さらに、そのママがお客さんより先に寝ちゃったりするから、
「しょうがないな」と言って客が洗い物をしてたりする(笑)。

つまり、サービスの余白を客が埋めることによって、その客も“中の人”として店のことを考えるようになるんです。だから、どれだけはやってなさそうなスナックでも、
常連客が支えることによってちょっとやそっとでは潰れなくなる。僕はここに、コミュニティビジネスやファンビジネスの本質があると思っています。
ちなみに、この本のタイトルも、最初は『なぜスナックは潰れないのか』になる予定だったんですよ(笑)。

―SHOWROOMは、まさにそんなスナックの集合体ともいえますね。配信者=ママと、視聴者=常連客が集う、仮想スナック。現在、AKB48グループのほとんどのメ
ンバーがSHOWROOMで個人配信を行なっていますが、今年の総選挙で台風の目となった荻野由佳さん(NGT48)は、「どうしたら人気が出るのか、SHOWROOMの
視聴者の方が全部考えてくださるので、私はそれを実行したんです」と言っていました。

前田 面白いですね。まさに、ファンを中の人としてコミットさせることに成功してますよね。芸人の西野亮廣(あきひろ)さんも、「絵本を10万部売るためには、
読者も作り手側に回せばいいんだ」と考えて、絵本の制作資金をクラウドファンディングで募り、みんなを“共犯者”にしてしまいました。今、西野さんの絵本は3
0万部を突破しましたが、僕は同じように「永遠に売れるビジネス本が作れないかな」って考えてるんですよ。

―永遠に?

前田 はい。ビジネス本って、普通は旬があって、長く売ることが難しいんですが、それを“自分の物語”として受け取ってくれる読者がいれば、ずっと売れ続けるかもしれない。
実は、僕の本を見ず知らずの高校生がフェイスブック広告で宣伝してくれたことがあるんですよ。

なぜだろうと思ったら、その高校生は「もっと多くの人にこの良書を知ってもらうことが自分のモチベーションになっている」みたいなことを言うんですね。
僕の本に関わることが、彼自身の物語になってるんですよ。
そうした応援もあって、Amazonの本ランキングで2位まできたんですが(7月3日時点)……1位の『ちつのトリセツ』という本が、なかなか抜けないんですよね(苦笑)。

―話題の本ですね(笑)。

前田 まあ、西野さんの本やSHOWROOMを見てわかるのは、「本質的に人間は人と関わりたいんだな」ということです。この情報技術時代を迎えて、人と人との関わりは
どんどん薄くなり、現実社会で絆(きずな)を感じることは難しくなりました。でも、その人とつながりたいという欲求をもう一度満たしてくれたのは、クラウドファンディングや
仮想ライブ空間という新しい情報技術なんですね。

ひところのソーシャルゲームの隆盛も、つながりたい欲求を満たすものとして機能しましたが、SHOWROOMはゲームではなく人そのものがコンテンツになっている分、
よりダイレクトにつながりたい欲求を満たす進化形のサービスだと思っています。

★この続き、後編は明日配信予定!