山陽新聞 2018年01月22日 17時30分 更新
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単身の高齢者や障害者を多く受け入れている賃貸マンション。
入居者が孤立しないよう、元日には地域住民と一緒に雑煮を味わう催しが行われた=岡山市
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「ここに住むことができて良かった」と話すAさん。自室に記者を招き入れ、笑顔を見せた
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改正住宅セーフティーネット法に基づく新制度
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 賃貸住宅の空き部屋が増えているにもかかわらず、高齢者や障害者、低所得者らは入居を断られるケースが珍しくない。孤独死や家賃滞納、近隣住民とのトラブルなどを懸念して、大家や不動産管理会社が貸し渋るためだ。昨年10月に施行された改正住宅セーフティーネット法で、入居を断らない賃貸住宅の登録制度が創設されたが「まだ周知段階で期待される成果は出ていない」(岡山市住宅課)のが実情。この改正法施行前から独自に進められてきた岡山県内での入居支援活動などを取材し、高齢者らの入居拒否の現状や展望を探った。

 「独り身だからこの間取り(1K)で十分。日当たりがいいし、スーパーが近くにあって暮らしやすい」。岡山市北区東古松の賃貸マンション「サクラソウ」で暮らす男性Aさん(67)が満足そうに話す。

「不動産屋を何軒回っても…」

 Aさんは生まれ育った関西地方を60歳で離れ、岡山市で運転手として働き始めた。だが、ほどなく過労で倒れ、心の病も患った。仕事を辞めて入退院を繰り返していた約2年前には住んでいたアパートの別室から出火し、すみかを失った。「親やきょうだいといった頼れる人はおらず、病気もあって金銭的な余裕もない」。ホームレスになることも頭をよぎったという。

 そんなAさんを救ったのは、弁護士や医療関係者、不動産業者らでつくるNPO法人「おかやま入居支援センター」(岡山市)。住める場所の手配を進めたり、生活保護や年金の受給手続き、関係機関との連絡調整に力添えするなど、新生活移行を全面的にバックアップした。「おかげで普通に暮らすことができている。心から感謝している」とAさん。

 このサクラソウは、不動産業の阪井土地開発(同市北区下中野)が「困っている人のための“最後のとりで”」(阪井ひとみ社長)と位置づける賃貸マンション。全54戸(1K、1DK、2Kで家賃は一律3万7千円)のうち、3分の2で高齢者や障害者が1人暮らししている。精神障害がある女性Bさん(37)は「部屋を借りようと不動産屋さんを訪ねても(身分証明のために)障害者手帳を出したらだめになった。何軒回っても同じ。差別しなかったのは、おばちゃん(阪井社長)だけだった」と振り返る。

空き家とマッチング

 日本賃貸住宅管理協会の調査(2015年度)によると、約7割の大家が単身高齢者、障害者の入居に拒否感を持っている。実際に単身高齢者の入居を断っている大家は8.7%おり、「家賃の支払いに対する不安」(61.5%)、「居室内での死亡事故等に対する不安」(56.9%)−などが理由に挙がった。岡山県内に特化したデータはないが、県宅地建物取引業協会は「孤独死を心配する大家さんは多い」とする。発見が遅れた場合、部屋の清掃や原状回復に多額の費用がかかる上、「事故物件」として家賃を下げざるを得なくなったりするためだ。

 一方で、岡山県内の13年度総戸数88万5300戸のうち、空き家は14万100戸(空き家率15.8%、全国平均は13.5%)。03年からの10年で約3万6千戸も増えている。特に賃貸のマンション、アパートなどは近年の新築ラッシュも重なり、およそ4割が空いているとも言われる。今後のさらなる高齢化で、賃貸住宅の入居を断られる人も増えていくと見込まれる中、「財政難の自治体が公営住宅を増やせない事情もあり、民間の空き家・空き部屋とうまくマッチングできるかが課題となっていた」(県住宅課)。