学生のころの話。友人に「大阪駅前第3ビルの金券ショップが安い」と聞き、
買い物ついでに金券ショップへ向かった。
JRで大阪駅に降り立ち、駅前第3ビルへ向かう。案内表示を見ながら順調に
目的地へと進むかに見えたが、途中で案内表示がなくなり迷子になった。
あっちへこっちへと歩いているうちにホームレス風の男性に声をかけられた。
「兄ちゃん、迷たか?」
藁にもすがる思いでその男性に道を尋ねたが「わからん。ワシも同じやw」と歯を見せて
笑った。歯はボロボロに欠けていた。
話を聞くと男性は東京の一部上場企業のサラリーマンだった。
しかし大阪出張の途中、梅田で迷子になりそのまま15年が過ぎ今に至るという。
その間に言葉も標準語からすっかり大阪弁に変わってしまったという。
「ええもん見せたるわ。」
男性の後をついていくと鉄の扉があった。扉の脇にあるセンサーに男性は指をかざした。
指ぬき手袋から伸びたひとさし指の爪は栄養不足のためだろうかボコボコとしていた。
扉が開くと泥人形のようなものが積み上げられていた。
「これな、みんな遭難者の遺体。梅田はその辺の山より多いんや。」
何ともいえない恐怖を感じた。私は無言で泥人形に向かって合掌していた。

あれから10年が過ぎた。人生とはわからないものである。私は梅田遭難者の
遺体管理を生業としている。
私も梅田で遭難した。駅前第3ビルは未だ見ていない。ここで骨をうずめる覚悟である。