【動画】カムイ伝や忍者について語る白土三平さん=山田佳奈撮影
https://www.youtube.com/watch?v=RALuwslH8no
インタビューにこたえる白土三平さん=千葉県、横関一浩撮影
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インタビューの最後に白土さんに描いてもらった自画像。
自身のキャラクターの一つ、影丸風に描いてくれた。「影丸より、少し目が鋭くなったかな」
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「決定版カムイ伝全集【第一部】」(小学館)から「カムイ」(C)白土三平
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 私たちが思い浮かべる忍者は、アニメや映画などから来ている。その草分け的な存在が、長編劇画「カムイ伝」を描いた白土三平さん(85)だろう。「カムイ伝」は、人間の平等や自由を描き、学生運動が盛んだった1960年代に若者の心をとらえた作品だ。白土さんに忍者への思いを聞いた。

 ――忍者に関心を持つようになったきっかけは

 戦争中、中学1年のときに今の長野県上田市に疎開しました。真田家ゆかりの地で、信綱(のぶつな)らの菩提(ぼだい)寺「信綱寺」が近くにありました。「鈴木君」という親友の家で猿飛(さるとび)佐助や霧隠(きりがくれ)才蔵の赤本をむさぼるように読みました。忍者は武士や農民ができないことをかなえてくれる存在ですが、私には、佐助らが格好良いというよりは素朴と感じられました。

 ――作品には、動物の生態や自然を生かす様子が詳しく描かれています

 疎開する前、東京・練馬でも農業はやっていましたが、長野での経験が生きています。農家の人に教えてもらいました。野生動物はどこまで食えるかも学んだ。50年ほど前に縁があり、今、房総半島で暮らしています。数十メートルで海。この前まで海女(あま)さんと一緒に潜ってサザエをとったり、農家の人が捕まえたイノシシやタヌキの解体を手伝ったりしていました。

 ――カムイは、江戸幕府が押しつけた被差別階級の「非人」として描かれました

 非人とは「人にあらざる者」。忍者はスパイという任務を遂行するのが一番大事で、そのためにはいつ死んでも構わない存在です。いわば「人にあらざるもの」ということで、そういう設定にしました。あくまでフィクションです。もし今、忍びの末裔(まつえい)の方たちが、この設定のために悩んでいるとしたら、この世の中に差別がなくなっていないということかもしれない。そのことが問題でしょう。

 ――圧政に耐えてきた農民が一揆を起こすが、武士が流す偽情報に疑心暗鬼になってしまう姿が繰り返し描かれます。民衆の反抗は無駄なのでしょうか

 私はそうは思いません。武士社会の中で一揆は農村の宝物。心を一つに対抗しました。真田幸村も、滅びゆく側につきましたね。人は実現しうることを夢見ると思います。

 ――「カムイ伝」を通じて伝えたかったメッセージは

 「カムイ外伝」に男として生きた飛天(ひてん)の酉蔵(とりぞう)という女の殺し屋が、最期、「飛んでる! 飛んでるぜえ!」と言うシーンがあります。自己解放です。あのページがすべてです。いいセリフが描けたと思っています。女が解放されない時代、平等になりたいという願いが「飛びたい」に表れました。時間を超え、性別を超え、人の願いは伝わっていくと思います。今の時代も、もっと女性が活躍した方がいい。でも、私に聞いても面白い答えなんか出ませんから。読んで、感じてくれたらいいです。

 ――カムイ伝の続きは、描かれないのでしょうか

 長く描いていないと、なかなか描けなくてね。こんな酉蔵みたいな絵も描けないです。今春、軽トラで誤って崖から落ちて3カ月入院しました。退院して半年くらいたちますが、もう連載することはできないですね。

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白土さんと会う前、学者のような姿を想像していた。だが、実際に会うと、陽(ひ)に焼けた肌に刻まれた深いしわ、漁師のようなたたずまいで、実際の暮らしと経験の中から紡ぎ出された哲学だと感じた。今、85歳。仙人のようだった。(山田佳奈)

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 しらと・さんぺい 1932年、東京生まれ。紙芝居の原画描きなどを経て、貸本屋用の漫画を執筆。週刊誌や月刊誌で作品を発表し、64年から「カムイ伝」の連載がスタート。「忍者武芸帳(にんじゃぶげいちょう)」など忍者が登場する作品多数。

朝日新聞デジタル 2017年12月27日14時26分
https://www.asahi.com/articles/ASKDM7J4QKDMPTFC01S.html