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この世の「地獄」10選 冥界の入り口にようこそ
NIKKEIプラス1
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2017/8/13 NIKKEIプラス1
三途の川に賽の河原。閻魔の目玉がぎろりと光る。
温泉や古刹を訪ねると、ときにあの世が見え隠れ。
冥界の入り口はほら、そこにも。地獄巡りへ踏みだそう。
 「悪さをすると地獄に落ちる」「嘘をつくと舌を抜かれる」――。「地獄の沙汰も金次第」というのもある。そもそも「地獄」って何だろう。

 「この世の恐れや苦しさ、悲しさが増幅して投影されたのが地獄」と小松和彦・国際日本文化研究センター所長。仏教が持ち込んだ世界観だという。地獄に落ちると火にあぶられ、手足をもがれ、鬼に食われる。
リアルで残忍な光景を思い浮かべ、恐れることで、「昔の人は生きることの意味を確認していた」(小松さん)。お盆と正月には、地獄の窯が開くという、民間伝承もある。

 ランキングには立山、川原毛など山岳の地獄が入った。元は修験道の霊山で、この世のものと思えない自然の中で修行を積んだ。異様な光景に異界を見る発想は1位になった「別府地獄めぐり」にもつながる。ただ、今でも有毒ガスを噴出したり、火山活動が再開したりすることもあるので、自然への恐れを忘れずに。

 寺院に閻魔像が安置されているのも、地獄と極楽との対比で仏教の教えを分かりやすく説いたことによる。かっと目を見開く閻魔像や奪衣婆(だつえば)の恐ろしさは今も変わらない。京都の2つの寺は、この世とあの世の境に建てられた。その信仰が今も続いている。

1位 別府地獄めぐり 630ポイント
泡立つ熱湯 まさに地獄絵(大分県別府市)

 別府といえば地獄。コバルトブルーの「海」のそばに、滴る赤の「血の池」が。「坊主」もいれば、「鬼」もいる。「わき立つ温泉の噴気、おどろおどろしい湯の色、ぶくぶくと泡立つ熱湯はまさに地獄絵さながら」(井門隆夫さん)。
「別府の地獄は多種多様で、これだけバリエーション豊かな地獄群は珍しい」(河村亮太さん)。奈良時代編さんの豊後国風土記にも噴気や熱泥、熱湯の噴出が記され、その歴史は長い。今は10以上の地獄がある。

 七五調で見どころを説明する定期観光バスは昭和初期からの名調子。「地獄蒸し焼きプリン」や「血の池軟膏(なんこう)」など地獄ならではのお土産も楽しい。

 (1)JR別府駅からバスで20分 (2)省略(別府地獄組合) (3)2000円(7カ所の共通券)


2位 立山地獄 420ポイント
響く鬼の声、赤い稲光(富山県立山町)

 アルペンルートで有名な立山。山肌に火口が口を開け、谷底からは煮えたぎる熱泉や轟音(ごうおん)とともにガスが噴き上げる地獄さながらの場所がある。かつては山全体が信仰の対象だった霊山。立山信仰、立山曼荼羅(まんだら)という言葉も生まれた。

 立山博物館に併設された「まんだら遊苑」は、「恐怖と快楽、地獄と極楽を共存させたスケール雄大なテーマパーク」(中尾隆之さん)だ。地獄の鬼の叫び声が響き、赤い稲光に包まれてさばきを受ける閻魔(えんま)堂など、五感で体験できる。周辺は「夏も涼しく、大自然を感じられる」(岩佐十良さん)。

 (1)富山地方鉄道立山線千垣駅からバスで約10分 (2)省略(立山博物館) (3)400円(まんだら遊苑)

3位 千本ゑんま堂 380ポイント
口かっと開け大目玉でにらむ(京都市)


 「ゑんま堂」と親しまれ、住所も「閻魔前町34番地」と閻魔づくし。地獄の裁判所を模した本堂では本尊の閻魔様がかっと口を開け、大目玉でにらみ付ける。「金色の目の閻魔大王が迫力満点。
古都のグレードの高さと民俗的な濃いムードが融合したドキドキする空間」(中野純さん)。「家族を連れて行き『うそをついたら、舌を抜かれるぞ』と伝えたら効果抜群」(富本一幸さん)

 正式名称は引接寺(いんじょうじ)で、かつては風葬が行われていた。「そこに閻魔様を安置し死者の魂を弔った」(戸田妙昭住職)のが始まり。「京都・千本。この地こそがこの世とあの世の境なり」(みうらじゅんさん)。寺務所では「ゑんま様のお目こぼし」(かき餅)が300円で買える。

 (1)JR京都駅からバスで約30分 (2)省略(引接寺)