時計2018/6/4 14:30神戸新聞NEXT

小さい「ゎ」を使う? 関学「くゎんせい」で注目

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文化庁によると、表記や発音の簡略化・統一は戦前から検討されていた。1924年には「くゎ」の発音を「か」とする「字音仮名遣改定案」(左)
がまとめられたが定着せず、46年の「現代かなづかい」(右)で「くわ」の表記が改められ、発音とともに「か」となった
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戦前は「くゎんせい」と発音していた関西学院大学=西宮市上ケ原一番町


 携帯電話(ガラケー)で「ん」の文字を出そうと、わ行のボタンを押していたときのこと。わ、を、ん、ゎ。勢い余って現れた「ゎ」。「わ」の小文字。「ゎ」…? そもそも、この字、人生で一度も使ったことがないんですけど。(小川 晶)

 正式には「捨て仮名」と呼ぶ小文字。携帯の通常入力では、「ぁ」〜「ぉ」と「っ」、「ゃ」「ゅ」「ょ」、そして「ゎ」の計10字を確認できた。

 このうち、「っ」と「ゃ」「ゅ」「ょ」は、切手、社会、習字などさまざまな単語に含まれる。「ぁ」〜「ぉ」も、ファイル、チェックなどの外来語にある。

 「ゎ」だけが異質だ。

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 携帯やパソコンなどの日本語入力システム「ATOK(エイトック)」を手掛ける「ジャストシステム」(東京)に問い合わせてみた。

 「方言とか、多様な表現に対応するために加えた字のはずですが…」

 広報担当、尾崎裕子さんの歯切れが悪い。開発部署に確認してくれたが、システムに組み込まれた時期や経緯は不明。
ただ、10年ほど前、「私ゎ」「今日ゎ」など、助詞の「は」の置き換えが若者の間で流行しており、少なくともそれ以前から設定されていたようだ。

 「そういえば」。尾崎さんが「ゎ」入りの単語を思いついた。沖縄の方言が由来のかんきつ系植物、「シークヮーサー」。

 インターネットで調べてみても、捨て仮名の表記が数多く出てくる。新聞表記では「シークワーサー」なのだが。

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 具体例が見つかったところで、「ゎ」の歴史も気になる。関西学院大の大鹿薫久(ただひさ)教授(国語学)に尋ねると、「か」の付く言葉に由来が隠されているらしい。

 現代の「か」は、かつて「か」と「くわ」で区別され、「くわ」の発音を「くゎ」と表した。例えば「火事」の表記は「くわじ」で、発音は「くゎじ」。
これが、1946年に発表された現代かなづかいによって、表記も発音も「かじ」に統一されたという。

 「アメフット問題で取り上げられましたけど、関学もその一つですよ」と大鹿教授。そういえば、日本大アメリカンフットボール部の前監督が、関西学院大の読み方を何度も間違えたことが話題になった。

 戦前は「くわんせい」学院と書いて「くゎんせい」と発音しており、英字表記「KWANSEI」はその名残だそうだ。

 ただ、「今でも『くわんせい』が正式な発音だ」と聞いたことがある。大鹿教授に確認すると、「表記も発音も『かんせい』です」と断言した。

 「関学の歴史を踏まえれば、歴史的仮名遣いで『くわんせい』と書き、『くゎんせい』と読むのはOKかもしれないが、『くわんせい』と発音するのはおかしい。
『てふてふ』を『ちょうちょう』と読まず、文字通り『てふてふ』と発音するようなもんです」

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 わずか一文字、されど一文字。奥深い「ゎ」のストーリーを、誰かに伝えたくなってきた。よし、誘い文句は…

 「シークヮーサージュースを飲みながら、くゎんせい学院で話を聞いて!」


https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201806/0011323244.shtml