●大阪人の2010年東京の旅
新横浜での法事の帰り、大阪人は観光がてら「けっ!しょうもないトンキンでも見たる」
と路肩に唾を吐きながら、なぜか新幹線で東京に向かった。
多摩川越えてしばらく行くと超高層ビル群が眼に入って来た。
「なんや、しょうもない。東京駅ちゅうのは、数はまあまあやが梅田よか低そうなビルやんけ」
荷物を持って降りそうになった大阪人を隣の乗客が親切そうに言った。
「ここは、品川ですよ」 
笑いをこらえている周囲の雰囲気が、デリカシーはないがプライドだけは妙に高い大阪人にはこたえた。
「わっ、わかっとるわい!! おどれらギャグがわからんやっちゃのぉ〜!」
やがて新幹線は左手に、NECスーパータワーや愛宕グリーンヒルズ、そして六本木ヒルズや東京ミッドタウンら
の超高層ビル群を映し出し始めた。
「ぽつんぽつんと建てくさって、ウメダみたいに集中せんか〜い!」 ついに乗客たちも吹き出した。
そのうちに、その声が聞こえたかのように、東芝本社などの浜松町の高層ビル群が見え始めた。
大阪人は目をこすった。「な、なんや、こりゃ!10年前に来たときゃ無かったで!!」
ついに汐留の超高層ビル10数棟が、200mの耐性のない大阪人の心臓を直撃していた。
大阪人は激しい動悸を抑えながら「わ、わいは夢を見てるんや‥」とひとり言を繰り返した。
「‥‥‥アッ‥あかんッ!‥‥‥あかんッッ!!!」
新幹線が、有楽町駅横を過ぎたあたりで大阪人はついにブザマに絶叫した。
200mの八重洲ツインタワーを筆頭に、東京駅周辺にたちならぶ信じられない超高層ビル群が見えたからだ。
丸ビル、新丸ビル、日本工業倶楽部、明治安田生命、丸の内オアゾ、東京ビルディング、サピアタワー、トラストタワー、三井タワー‥‥‥
さらにその向うにも、20〜30階の大手町のビル群が分厚いビルの層を作って日本一の高層街を作っていた。
「ツインタワーは名古屋だけやなかったんか‥‥」
完全に自信を失なった大阪人は、ふらつきながらも条件反射で低い駅舎の丸の内口へ降りた。
しかし無残にも、視界の先に広がる霞ヶ関でもすでに高層ビルが立ち並んでいた。
「うぎゃ〜〜〜!! 新宿は‥‥新宿はどうなったんや!! 梅田は新宿に勝つのを目標にやってきたんや!
その数倍のビルがいつのまにか建っとるやんけ!!」
 その後の大阪人の旅は秋葉原・飯田橋・神保町と、かつての低層ビル街に続いた。
自信をとりもどそうとしたのだ‥‥‥。しかし‥無残にもそこも高層ビルの立ち並ぶ街になっていた。
もはや自分を見失った大阪人は勝どき橋に向かった。傷ついた大阪人は上田正樹が歌ったように海を求めていたのだった。

しかし、大阪人がそこで見たものは‥‥‥‥
晴海トリトンスクエアからはるか豊洲・東雲、遠くは臨海副都心に続くまさに容赦の無い超高層ビルの群れ! 群れ!! 群れ!!!
「あ‥‥あわっわっわわわわっわわわっわ‥‥!!!! 」ついに大阪人は失禁した。
めまいと耳鳴りの中、大阪人は薄れ行く意識の中で呟いた。

「トンキン‥‥これがトンキンか‥‥‥‥」