【都心回帰 舞台は伏見(リニアへの10年 名古屋が変わる)】
日本経済新聞 2017/5/26 4:00
http://mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXLASFD23H0W_T20C17A5940M00/

■試される「住みやすさ」

 「名古屋で、億を超すマンションの需要があるか不安だったが、ほとんんど即完売だった」。
東陽倉庫の武藤正春社長は11日の決算発表の記者会見後、同社所有地など1万平方メートルを超える
「納屋橋東地区市街地再開発事業」の手応えを問われこう胸を張った。

 マンションのメインターゲットは郊外に一戸建てを構えていた高齢者。再開発エリアは名古屋駅や栄といった繁華街に近い。
「ビル内には商業施設や医療モール、金融機関までそろう。間取りも含めて高齢者のニーズに合致している」と武藤社長。
販売を手がけた野村不動産の水野克明名古屋支店長も「期待以上の売れ行きだ」と、驚きの表情を浮かべる。

 古くからの商業の中心地「栄」と、高層ビル開業が相次ぐ「名駅」。2つの核に挟まれた伏見・納屋橋地区はこれまで、
再開発での存在感は比較的薄かった。だが、リニア中央新幹線開通を10年後に控え、脚光を浴びている。

 舞台は「御園座」と、かつての「新名古屋ミュージカル劇場」だ。建て替えなどを機に、便利な一等地でマンションや
ホテルなどの開発が進んでいる。マンション業界に詳しい東京カンテイの有馬義之ゼネラルマネージャーは
「今、名古屋市内で最も注目の場所。(東阪に比べ遅れていた)名古屋で都心回帰の起点となる」と分析する。

 リニア開通をにらみ、生まれつつある「名駅に住む」という発想。だが「機能が集中して街が混雑しすぎると、
魅力を損ないかねない」と、JR東海初代社長の須田寛相談役は指摘する。
 混雑を防ぐためにも、「住む」という機能は周辺エリアが分担したほうが良い。名駅地区で起こった再開発の波が、
「名駅から伏見、栄までつながっていく」(JR東海の柘植康英社長)のが理想だ。

 マンション建設が続く伏見や納屋橋は、名古屋駅などの機能の一部を分担できるエリアの代表例といえるだろう。
ただ伏見、納屋橋地区にも足りない機能はある。

 例えば、住宅地としては食品や生活用品などが買える店舗が比較的少ない。「人口増が見込める都心部は魅力的なうえ、
(納屋橋東は)周囲に競合店がない。地域住民からの需要も見込める」。納屋橋東の再開発エリアに新店舗を出すユニーの佐古則男社長も、
小売店の少なさを強調する。

 名古屋市営地下鉄伏見駅では市交通局が2019年度中に、同駅の約900平方メートルの空間に、駅ナカ商業施設を設ける計画が進む。
物販店舗の少なさを補う狙いで、すでに名古屋鉄道と不動産業のザイマックスのグループを事業者に決めた。
オフィスと住居、店舗がバランス良く近接する街への脱皮を目指している。

 ただ、伏見・納屋橋エリアは、名古屋市周辺から移り住む人は多くても、東京や大阪などから人々を呼び寄せられるほど
十分な魅力は発信できていない。名古屋を中心とした中部エリア内での陣取り合戦で優位に立っているだけともいえる。

 現在は人気を集める伏見、納屋橋も決して盤石ではない。だが「ポスト伏見」の候補も乏しい。
「栄エリアも含めて、伏見・納屋橋はまだまだ開発余地がある。ただ次のマンション開発で候補となる有望エリアとなると、
なかなか浮かんでこない」と、マンション事業者は話す。

 遅ればせながら動きをみせる名古屋での都心回帰。その起点となった伏見・納屋橋の成否は、リニア開通後の
「居住地・名古屋」の競争力を映し出す鏡ともいえそうだ。

納屋橋東の再開発にはスーパーや金融機関、医療モールなども入居し、高齢者らの人気も高い
(25日、名古屋市)
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