見えないところまで凝る日本的職人気質は、それによって自分の勤勉さ、
引いては人格的高潔さを主張する。そしてそれこそが玄人(専門家)だと信じて
疑わない。結果としては、日本の玄人は細部を重視するあまり、全体を軽視する
傾向が強くなる。
建築物にしても、細部の施工は何とも見事だ。たとえばパネルの貼り方などは
じつにていねいで、床のタイルもセンター(中心)から両側に貼り分けて
双方の隅に同じだけ余らすようにする。外国では一方から順番に貼っていって、
半端は片側にだけ残す例が多い。それでも両側が同時に見えない広い
部屋では、違いもわからないし、何の影響もない。しかし、日本の専門家たちは、
そんな「横着」をけっして見逃すことがない。
その半面、ビル全体を見ると、外国のほうがむしろ格好がよい。さらに
街全体となると外国の街はじつにきれいに映える。細部を重視する日本では、
細部担当者の意向を抑えて全体調整を行うことが難しいからだ。
 このことは組織そのものにも影響している。日本の組織は、トップのコントロール
は弱く、部課長や係長の権限が強い。細部を担当する下部にこそ権限がある。
今日、日本の工業製品の輸出競争力の強さの秘密は、この細部のよさ
である。トータル・デザインを外国から導入して、細部を日本的勤勉さで
製作すれば、品質良好な製品が生産できる