道路は自動車だけのものではない

なによりほかの交通機関、特に自動車の円滑な動きを妨げないように軌道に制限をかける、という視点の再検討も必要である。この点は、道路交通法第21条(軌道敷内諸車乗り入れ禁止)により、一応は道路上で軌道の車両が優先されることが建前となっている。

しかし、1960年代からのモータリゼーションにより自動車の交通量が急激に増加し渋滞が発生するようになったことを受け、軌道敷の諸車への解放という動きが生じた。軌道敷内諸車乗り入れの規制緩和がなされるようになったのである。それにより道路の渋滞が緩和されるどころか軌道敷にも渋滞が発生して路面電車も渋滞に巻き込まれるようになり、生命線である速達性や定時性が失われた。ひいては路面電車に対する利用者の信頼も失われ、路面電車の衰退につながった。

高速自動車国道(道路法第3条第1号)を除き、道路は自動車だけのものではなく軌道を含む一般交通の用に供される施設である(道路法第2条第1項)。しかも軌道については、2007年に成立した地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(以下「地域公共交通活性化・再生法」)により、活性化、再生されるべき地域公共交通に指定されている(地域公共交通活性化・再生法第2条第1項、第2項ロ)。

さらに、地域公共交通活性化・再生法第2条第6項は、「軌道運送高度化事業」として「より優れた加速及び減速の性能を有する車両を用いることその他の国土交通省令で定める措置を講ずることにより、定時制の確保、速達性の向上、快適性の確保その他国土交通省令で定める運送サービスの質の向上を図り、もって地域公共交通の活性化に資するもの」という事業を定めている。

そして同法では第二節で「軌道運送高度化事業」をまとめており、同法第10条で軌道法第3条に定める国交相の特許を受けたものとみなす場合を規定している。LRTを新たな公共交通機関として育成しようという目的が明確に示されており、道路使用について新たな視点を設けたといえよう。しかし、それでも速度制限、車両長などの法令による制限からの解放やLRTの整備推進に対する法令上の諸規制緩和については必ずしも十分に触れられておらず、これだけでは画竜点睛を欠くように思われる。

法律が成立、あるいは維持されるためには「立法事実」が必要である。対象となる事象に対して立法すべき目的・理由を定め、その目的を達成するためにどのような手段を設けるのが合理的か、つねに検討されなければならない。