海外で暮らす日本人の数が30年間で倍増している。国際化の急速な進展に加え、経済停滞で将来が見通せない日本よりも、東南アジアなど成長する国々の方が魅力的に映り始めたことが背景にある。新たなビジネスや転職でチャレンジしたい人々にとって、日本は「選ばれない国」になりかねない。

外務省によると、海外で暮らす日本人は昨年10月時点で約134万人と、1991年の約66万人から倍増している。留学や駐在など3カ月以上の長期滞在者と永住者の合計で、永住者数は約53万7000人と全体の4割を占め、統計を取り始めた1968年以降過去最高に達した。
 これまでは企業の積極的な海外進出に伴う移住や、「富裕層が資産運用や子どもの教育のためにシンガポールなどに移り住む」(エコノミスト)動きが注目されてきた。さらに経済成長できない日本から中間層が「脱出」する事態が指摘され始めている。

 成長を続ける国との最大の違いは賃金だ。経済協力開発機構によると、日本の1990年~2020年の平均賃金の上昇率は4%ほど。同じ期間に米国は約5割増、韓国は約9割も上がる中で異質さは際立つ。

 賃金が上がると消費が活発化し、需要が増えて商品の価格も上昇する。企業の利益が増えて再び賃上げという経済の好循環へとつながりやすい。日本も経済政策アベノミクスなどで目指してきたが、実現しないまま30年近くがたった。

 英国エコノミスト誌がハンバーガーの価格を基に各国の物価を比較する参考指標「ビッグマック指数」によると、日本は今年1月に約390円で33位だったのに対し、タイは日本を上回る約440円で25位だ。日本は5位だった2000年から低下が著しく、「安い日本」が定着した姿を象徴的に表す。

 今の物価高は資源の価格高騰を主因に起きたもので、家計や企業収益は圧迫されており、経済の好循環が実現したわけではない。第一生命経済研究所の西浜徹氏は「このままでは、若者や挑戦したい人に見切りをつけられてしまう」と警鐘を鳴らす。
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