最低賃金(最賃)に近い低賃金で働く人の割合が最近10年ほどで倍増していることが、賃金に詳しい都留文科大の後藤道夫名誉教授の試算で分かった。最賃の全国平均の1.1倍以下で働く人の割合は2020年に14.2%となり、09年の7.5%から急伸した。非正規労働者や低賃金の正社員が増えたのが要因の1つで、コロナ禍が脆弱な雇用構造に追い打ちを掛けている。

◆パート女性「老後の備えはない」
 「夫の給料だけでは息子の教育費が足りず、12年間働いているけれど老後の備えは一切ない」

神奈川県内のスーパーで働くパート女性(51)はこう語る。時給は同県の最賃より28円高いだけの1040円で、週5日働いて月の手取りは9万円。大学生の息子はコロナ禍で飲食店のアルバイトもできない。「子どものために最賃に近い給料で働くお母さんが多いと知ってほしい」と話す。

後藤氏は給料が最賃の1.3倍までを「低賃金労働者」とみて、業種別で比較可能な09年と20年の賃金統計を分析した。最賃の全国平均以下で働く割合は3.3%から6.2%に、最賃の1.3倍以下に対象を広げると19.5%が31.6%に増えた。

最賃は引き上げが続き、09年の平均額713円が20年には902円に上昇。後藤氏は「最賃の上昇に伴って最賃近くの給料水準の人が増えた」と説明した上で、「非正規労働者の割合が4割近くに達するなど雇用構造の変化の影響も大きい」と指摘した。

20年分を業種別にみると、最賃の1.1倍以下で働く人は卸売り・小売り(22.2%)や宿泊・飲食サービス(31.5%)などが多い。パートやアルバイトら非正規労働者が多い業種だ。コロナ禍に伴う休業や時短勤務で収入が減ると、多くの生活困難者が出た。

就業者数も定期昇給がある自動車など製造業は減る一方、昇給しにくい介護福祉業は20年に09年の1.5倍に増加。後藤氏は「正社員も含め最賃に近い低賃金が広がり、コロナ禍のような経済ショックで困窮しやすい」と分析する。

都内の大手メーカー子会社で働く男性正社員(40)は、手取り14万円。時給換算すると東京の最賃(1013円)の1.1倍をわずかに上回る1126円だった。男性は精神疾患があり障害年金を受けているが、医療費に消え、週に5日は夕食を抜いてしのぐ。コロナ禍を理由に賃上げも抑えられたといい、「いつになれば普通に生活できるのか」と不安な日々を過ごす。
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