政府は行政のデジタル化を進めるため、マイナンバーカードの機能を拡充する。カード情報をスマートフォンに搭載し、行政手続きや民間サービスの本人確認を生体認証でできるしくみを検討する。新型コロナウイルス対策の10万円現金給付で混乱したのを受け、システム改善に取り組む。

政府は30日、首相官邸でマイナンバー制度に関する作業部会を開いた。

菅義偉官房長官は「スマホへの搭載に加え、生体認証など暗証番号に依存しない仕組みを検討する」と表明した。「ポストコロナの社会で、国民の生活が安心で便利になるよう政府一丸で取り組む」とも強調した。

政府は今後5年間をマイナンバー改革の集中期間と位置づけ、年内に改革の工程表をつくる。早ければ来年召集の通常国会に関連法案を提出する方針だ。30日の会合で有識者の意見を踏まえた論点整理を公表した。

2022年度末に「ほとんどの住民がカードを保有する」との目標を示して普及を促してきた。現実は普及率が5月末時点で16.7%にとどまる。行政手続きなどのインフラの役割を十分果たしておらず、取得するメリットがみえないからだ。

政府は利便性を高めるためカードに組み込んだ本人情報を広く使えるようにする。アプリを活用して、カードと同等の機能をスマホでも使えるようにする。

一度スマホに氏名や住所などの情報を取り込めば、スマホの生体認証機能を使って本人確認を可能にする。

カードに生体認証機能をつけて暗証番号を忘れても活用できるようにすることも検討する。

新型コロナ対策の現金10万円給付では新たにカード取得を申請したり、暗証番号とパスワードを忘れたりする人が市役所などに殺到した。

対応力を高めるため、カードのシステムを運営する地方公共団体情報システム機構(J-LIS)を見直す。サーバーの増強や専門知識を持つ職員の採用強化などの対策を打ち出す。

10万円給付で混乱したのはカードを持っていても普段使っていない人が多いためだ。

このため官民ともにカードを使える範囲を広げる。マイナンバーの専用サイト「マイナポータル」を改善し行政手続きのオンライン化を進める。

引っ越しの際に役所でマイナンバーカードを使って必要な手続きをすれば、銀行など金融機関や携帯会社の住所変更手続きができるなど、民間にも利用範囲を広げる。

オンラインで金融サービスを受ける際に必要な本人認証をマイナンバーカードで可能にすることも検討する。

民間サービスへの利用拡大はマイナンバーカードに搭載したICチップの機能を使うもので、マイナンバーそのものとは連携させない。

国内の住民一人ひとりに12ケタの番号は社会保障と税、災害対策にしか使えないとマイナンバー法で定めるからだ。

政府はマイナンバーの利用範囲も拡大する。児童手当や生活保護制度などの受給状況の把握などを候補に挙げた。運転免許証や国家資格証などをデジタル化させてマイナンバーと連携させることも検討する。

個人向けウェブサイトのマイナポータルについては、健康診断の情報や奨学金の給付状況など閲覧できる機能を増やす。

政府はマイナンバー制度とマイナンバーカードを行政のデジタル化を進めるための基幹インフラと位置付ける。

21年3月にはカードを健康保険証としても使えるようにするなどこれまでもロードマップを作ってきた。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60982540Q0A630C2PP8000/