アメリカでは好景気と低い失業率のために人々の暮らしが良くなっているようにも見受けられますが、その好景気は必ずしも実際の生活に反映されているわけではないようです。シリコンバレーの住人を対象にした調査では、収入の増加率を物価の上昇率が上回っているため、実質の所得額が減少しているという結果が明らかになっています。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UC Santa Cruz)と労働に関するシンクタンク「Working Partnership USA」は、シリコンバレーで働く労働者の収入の実態を調査。1997年と比較した賃金の上昇をインフレ率で差し引いた値を計算したところ、テクノロジー系の仕事に就く労働者の収入は1997年以降で平均32%増加したことが判明した一方で、それ以外の仕事に就く人の収入は減少していることが判明しました。

その実態を示しているのが以下のグラフ。対象者を収入別に並べた時のパーセンタイルでみると、50パーセンタイルあたりに位置する労働者の収入は1997年と比べて14%以上も減少していることがわかります。10本の棒グラフのうち9本が赤色になっていることからもわかるとおり、過去20年間で実質的に収入が増加したといえるのは全体の10パーセンタイルの住人だけであり、しかもその増加率は1%にも満たないという状況。しかも、テクノロジー系企業の従業員の中にも、この上位10パーセンタイルに属さない人がいる模様です。

2001年以降、シリコンバレー地域では経済が大きく成長しており、住民1人あたりのGDP成長率は74%という極めて高い成長率を示していますが、必ずしも富が労働者に分配されていないという実態が存在します。2001年時点では、シリコンバレー全体が稼いだお金の64%が労働者に分配されていたのに対し、2016年時点でその値は60%に減少。この、減少した96億ドル(約1兆円)のお金は投資家や企業のオーナーの手に渡ったものと見られています。

UC Santa Cruzのクリス・ベンナー教授は、「この地域で生み出された売上や富は信じられないほどですが、一方で大部分の人口に対する経済モデルとして機能していない点も驚くべき点です」と述べています。ベンナー氏によると、GoogleやFacebookといった大手テクノロジー系企業がそれぞれの市場で非常に支配的な立場を築いており、投資家や一部のトップ従業員により多くのお金が集中する仕組みになっているとのこと。

その影響は、シリコンバレーで非テクノロジー系の仕事に就く住民の生活に及んでいます。シリコンバレーではあらゆるものの物価が上昇しており、中でも住居にかかるコストが大きく生活を圧迫しているとのこと。教師や消防隊員として勤務する人の多くはそれまで住んでいた地域に住めなくなり、よりコストの低い郊外へと引っ越しすることを強いられるケースも見られており、本来ならば地域に密着して業務に就くはずの人たちがそこに住めなくなるという悪影響が及んでいるそうです。
https://gigazine.net/news/20181120-silicon-valley-wage-dropped/