「今までの業務経験は」「社内ではどう評価されているの」。プロジェクトを立ち上げたばかりの技術者同士が言葉を交わす。一見しただけではどちらが発注者でどちらが請負者か分からない。
富士通が東京都大田区で開設した「アジャイルラボ」は「主客協働型」と呼ばれるソフトウエア開発拠点だ。気分転換の卓球台にキッチンまでそろう。チームワークの向上も狙いの一つで、中村記章エグゼクティブアーキテクトは「原則、朝食を含む食事を一緒にとってもらう」と話す。
「世界では10年以上前からある手法だが、さらに一歩踏み込みたい」。中村氏が意気込むのは「アジャイル」と呼ばれるシステム開発手法の普及だ。アジャイルは最低限必要な機能をそろえてまずサービスを始め、後から柔軟に機能を追加していく。比較的簡単なソフトウエア開発では、すでに広く浸透している。
ただし日本企業の基幹システムは「ウオーターフォール」と呼ぶ完成形で運用開始に臨む手法が主流。欧米では製造業の部品や工程の管理、サービス業の顧客分析といった基幹システムも5割がアジャイルでつくられている。一方で、日本は1割にとどまるという。
富士通はこの領域に斬り込む考えで、アジャイルラボが足場となる。自社エンジニアの教育を進めると同時に、システム開発の発想を根本的に変えることの重要性を顧客エンジニアにも伝える。従来のITサービス企業による「ご用聞き」ではなく、主客が協働して効率的な開発と運用のアイデアを出し合う新たな形を共同でつくりあげる。
中村氏は「現在大きな影響力を持っている企業にも危機感がある。ITをテコに、新しい産業の担い手が次々と登場しているからだ」と強調する。スタートアップから大企業まで、ITを軸にしたサービスの発想とその運用のタイミングが生死を分ける時代になっている。富士通などITサービス企業にとって、顧客の啓発は避けて通れない道になりそうだ。
2018/10/12 14:09
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36410510S8A011C1X12000/