「先進的なソフト開発手法の導入で、日本と世界の差が広がっている」。CI(継続的インテグレーション)ツールのオープンソースソフトウエア(OSS)「Jenkins」の開発者であり、米CloudBeesのCTO(最高技術責任者)を務める川口耕介氏が警鐘を鳴らす。2018年9月23日に開催する「Jenkinsユーザ・カンファレンス 2018 東京」に先立って、日経 xTECHのインタビューに答えた。

Jenkinsはバージョン管理ツールへのプログラムの保存といった出来事を検知して、自動的にツールの起動などの作業を実行する。日本では、ソフトウエアのビルドやテストを自動化する定番ツールとなっている。ところが、多くの企業で活用が現場の作業改善にとどまる。その先に進まない日本企業の姿に川口氏は物足りなさを感じている。同氏はこの状況を打破すべく、CloudBeesの日本への関わりを増やす意向だ。

 ここでいう「その先」とは、サーバーへの展開、リリース準備まで自動化する「継続的デリバリー」という開発手法だ。川口氏は「プログラムを書いて、市場やユーザーのフィードバックを得て、ソフトウエアを改善する。このサイクルを短くするのが世界的なトレンドになっている。継続的デリバリーはこの目的を満たす中心的な方法論となる」と言う。

 継続的デリバリーを導入すれば、プログラムを書いてから本番環境にリリースするまでの手間と時間を削減できる。ソフトウエアをより短いサイクルで繰り返しリリースできるようになれば、競合よりも魅力的なシステムを実現しやすくなる。間違ったビジネス戦略をソフトウエアに組み込んだとしても、すぐに軌道修正できる。

 背景には、ビジネスの成否を分ける要素として、ソフトウエアの占める割合が年々高まっていることがある。その一方で、ソフトウエアは大規模化している。「今までの開発手法では立ちゆかなくなっている。リリーススピードが遅くなり、市場からのフィードバックをなかなか得られないからだ」(川口氏)。継続的デリバリーを導入できている企業とできていない企業で差が開いていく。

中略

世界と日本の差は「危機感」
 Jenkins Xはやや極端だが、継続的デリバリーの導入を後押しするJenkinsの取り組みは、米国や欧州、中国などの企業で歓迎されているという。開発手法を変革したいという意向が強いからだ。「特にマネジメント層が危機感を募らせている。組織としてどうトレンドをキャッチアップすべきかという相談をよく受ける」(川口氏)。

 組織として継続的デリバリーに取り組む場合、コンプラインス、セキュリティ、ガバナンスに多くの注文が付く。これに応えるため、CloudBeesはJenkinsを拡張して職務分掌機能や監査機能を追加した商用ソフトの「CloudBees Core」を提供している。これは、米オフィス・デポや米アクセンチュア、独ボッシュといった大手企業での採用が進んでいる。

 これに対し、日本企業には温度差があるという。「現場の危機感は強いのに、マネジメント層の危機感が薄いと感じる。ソフトウエアは下請け企業が作るもので、自分たちが当事者という意識が薄いのかもしれない」(川口氏)。

 だが、ソフトウエアを中心としたデジタルビジネスの進展は待ったなし。日本企業の動きが鈍いようでは、外資系企業に市場を食い荒らされる恐れもある。こうした日本の状況に危機感を抱く川口氏は「CloudBeesとして日本に逆上陸する」と宣言する。

 すでにテクマトリックスとの提携を通じて、2017年3月にソフトウエア製品やクラウドサービスの日本での提供は開始している。今後は、直接的な情報提供も含めて、さらに日本企業への積極的な関わりを増やしていく意向だ。第1の目標は「インパクトのある日本企業の事例を作ること」(川口氏)。それを通じて経営層の問題意識を高め、日本企業の変革を進めるというのが川口氏の野望だ。
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