官邸主導の「無償化ありき」
「どんなに貧しい家庭に育った子供たちでも進学のチャンスを確保する」――。

そんな謳い文句で安倍政権が昨年打ち出したのが「大学無償化」だ。

6月15日に閣議決定されて2020年度から動き出すことが決まったが、じつは一部の専門家からは批判の声が出ている。この制度が官邸主導が進められてきたことから、多くの課題が積み残しにされたまま「無償化ありき」で議論が先行していることが背景にある。

例えば大学無償化というと「低所得世帯の授業料がタダになる」という話ばかりが強調されるが、対象学生の「生活費」もタダになるということをご存じだろうか。ほとんど注目されていないが、「無償化の途中解除問題」という新たな問題も浮上している。

果たして大学無償化は本当に誰もが輝ける社会への突破口なのか、税金の無駄遣いに終わることはないのか――。ここで一度検証して見よう。

国が「生活費」をお手当
まずは、今回閣議決定された大学無償化の内容を仔細に見ていこう。

支援対象となるのは「年収380万円未満」の世帯で、住民税非課税世帯(年収270万円未満で、夫婦子2人、うち1人が大学生)の場合、国立大では年間授業料53万6000円が全額免除され、授業料が高い私立大学ならば70万7000円を上限に免除される。入学金についても、国立大は約28万2000円が免除され、私立大も約25万3000円まで支援される。

支援額は収入に応じて異なり、「年収300万円未満」の世帯は上記のような非課税世帯の3分の2、「年収300万〜380万円未満」は同3分の1だ。

ここまでは新聞やテレビでもよく報じられている内容だが、あまり知られていないのは大学生らの一定程度の生活費も「タダ」になるということだ。具体的には、対象学生は授業料が免除・支援されるだけではなく、生活費にあてるために返済義務のない給付型奨学金が支払われることが今回閣議決定された。

生活費支援額を見積もると「年106万600円」ナリ
そもそもどうして授業料だけではなく、国が生活費まで面倒を見るのか。

閣議決定された政府のペーパーによれば、〈非課税世帯の子供たちを対象に、学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費を賄えるよう措置を講じることとする〉とある。

言い換えれば、アルバイト三昧で学業が疎かにならないように、国が手当てしますというわけだ。

その是非はここでは一旦置くとして、国がどこまでの生活費の面倒を見るつもりなのかを見ておこう。

もちろんなにからなにまで学生の生活費すべてを支給するということはなく、対象は限られる。

具体的には奨学金を交付する日本学生支援機構の学生生活調査の経費区分に従って、@教科書・参考図書などの修学費、A課外活動費、B通学費、C食費(自宅以外から通う学生に限り、自宅通い学生の経費を超える額を措置)、D住居・光熱費(自宅外生に限定)、E保健衛生費、F通信費を含むその他日常費、G授業料以外の学校納付費(私立学校生に限定)としている。娯楽・嗜好費は社会通念上妥当ではないため除いている。

気になるのは、それでどれくらいの生活費が「タダ」になるのかだろう。

文科省は「対象額は今後検討する」としているが、支援額の目安となるとされる支援機構の学生生活調査結果(14年)によると、もっとも費用がかかるとみられる一人暮らしの私大生の場合、@5万100円、A3万1200円、B2万6000円、C15万8600円、D42万9700円、E3万6400円、F15万100円、G17万8500円。

これを単純合計すると、じつに「106万600円」になる計算だ。

無償化が完全適用される非課税世帯の私大生のケースを考えると、授業料が上限約70万円まで免除されるうえ、年100万円超の生活費が返済不要の給付型奨学金で手当てされる可能性がある。これが「事実上の生活保護」であり、「ここまでやる必要があるのか」と指摘されるポイントになっているわけだ。

実際、生活費支援の中身を詳細に分析して見ると、確かにいくら非課税世帯の学生支援とはいえ、そこまでやるべきかと「疑問符」がつく部分も見受けられる。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56145