オイルにまみれて、手を黒くして、ミリ単位のモノ作りに汗を流す――。そんな匠の技が一気に廃れてきた。変化を拒めば、ただ失業が待つ過酷な時代。技術者たちよ、君たちはどう生きるか。

大企業を去った男の告白
「大組織の中のコマの一つではなく、自分自身でビジネスを構築できる仕事がしたいと考え、思いきって転職しました」

こう語るのは、ソフトバンクの子会社で、バスなど公共交通の自動運転関連サービスの開発に取り組む「SBドライブ」の坂元政隆氏(32歳)だ。

坂元氏は2011年に大学院を修了して大手自動車メーカーに技術者として入社。エンジン関連の開発に携わった後、'14年に社内公募に応じてEV(電気自動車)技術関連のマーケティングを行う部署に異動、'17年3月末に退社してすぐに現職に転じた。

現在、坂元氏は企画部に所属。自動運転の開発だけではなく、規制対応や他社との提携業務など事業全般にかかわっている。

たとえば、全日本空輸とSBドライブは今年2月21日から羽田空港新整備場地区で運転手がいない自動運転バスの実証試験を開始し、東京五輪が始まる2020年までの実用化を目指しているが、こうした事案を取り仕切る。

SBドライブは'16年に設立されたばかりのベンチャー。佐治友基社長も坂元氏と同年代の若い会社だ。大手で開発とマーケティングの仕事をしてビジネス全体を俯瞰する力を養った坂元氏の手腕は頼りにされている。

坂元氏自身、自動車メーカー在籍当時から「技術革新の流れが速いこの時代に、技術者の働き方はこれからどうなっていくのだろう」との危機感を抱いていた。

その一つのきっかけとなったのが、コスト削減のために外資とエンジンの相互供給をするようになったことだ。「エンジン屋の仕事は減るだろう」と直感した。

人工知能(AI)の進化などにより、技術者の置かれた環境は激変し始めている。坂元氏は言う。

「クルマのボンネットを開けると、さまざまな部品が配置されています。あの配置を決めるのには、部品設計の担当者同士がスペース獲得競争をしながら摺り合わせて細かい調整をします。

が、いずれAIがこの配置が最適と判断する時代になり、人による摺り合わせ作業は最小限になるでしょう」

AIの登場によって伝統的な設計手法まで変わり、人が要らなくなる。加えて、EVシフトなど電動化の流れによって、主流のエンジン技術者も余ってくる。

日本では工学部で機械工学などを専攻して自動車メーカーのエンジン技術者になることが技術屋の歩むエリートコースの一つだったが、その流れは完全に崩れている。

トヨタ自動車の寺師茂樹副社長は昨年12月、記者会見して'30年に電動車(ハイブリッド車含む)の販売で550万台以上を目指すと発表。

そのうち100万台はエンジンがまったく搭載されていないEVと燃料電池車になる見通しだ。そして'50年までに新車販売ではエンジンだけで走るクルマをほぼゼロにする。

今から32年後は、今春入社した新入社員の中にもまだ「現役」として活躍している人材もいることだろう。しかし、想像以上に技術者の仕事の仕方や質が激変していることは間違いない。

エンジン技術者の悲劇
トヨタだけに限らず、ホンダも2030年までに新車販売に占める電動車の比率を65%にまで高める計画。日産自動車は3月23日、'22年度までに電動車の販売を年間100万台にすると発表したばかりで、'25年度には日本と欧州では新車に占める電動化率が50%になると見込んでいる。

では、国内のエンジンの技術者はこれからどうなっていくのだろうか。

「海外に活路を見出すしかない。アフリカや東南アジアなどの新興国市場では商用車向けにエンジン車は必要。エンジンの開発拠点は徐々に海外にシフトしていく」(大手自動車メーカー元役員)

実際、トヨタは完全子会社化したダイハツ工業を主体に「新興国小型車カンパニー」を'17年に設立。同カンパニー傘下の「トヨタ・ダイハツ・エンジニアリング・アンド・マニュファクチャリング」をタイに発足させた。

そこにエンジン開発を移すのではないかと見られている。いずれエンジン技術者は日本では食えず、アジアに職を求める時代になるのかもしれない。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55290