財務省事務次官のセクハラ問題が発覚し、セクハラについて議論が沸騰している。また世界的に#MeToo運動が広がり、セクハラや性暴力の被害が次々と告発されるようになったことも記憶に新しい。
あまり語られないが、婚活もセクハラの問題をはらんでいる。実は今年で、安倍政権が「官製婚活」に税金を投入し始めて5年になる。全国各地で自治体や企業が巻き込まれた結果、何が起きているのか。官製婚活について取材・研究してきた富山大学非常勤講師の斉藤正美氏が、問題点と危機感を綴る。

官製婚活とセクハラ
福井県庁を1年半ほど前に訪問した際、エントランスには独身従業員の結婚を応援する「縁結び企業さん」の一覧リストが展示されていた。

これは社内に結婚のお世話をする「職場の縁結びさん」(婚活サポーター)を置くもので、「めいわくありがた縁結び」と呼ばれる。「ふくい応援企業が100社到達!」と書かれ、ハートの折り紙が飾られ、まるで営業成績を誇るかのようだった。

本年4月現在、参加企業が212社に上るという。福井県の担当職員によれば、「職場の縁結びさん」は、独身の人に「あんた(結婚は)どうなのー」と声を掛けると言い、中小会社では社長が「縁結びさん」になる場合もあるという。

担当者によれば、「職場の縁結びさん」には、社長など「独身の方に物が言えるような人」や「職場の先輩とか同僚とかの既婚者」など、いわば断りづらい人を選ぶという。

しかし、上司から「まだ結婚しないのか」や「そろそろ結婚したら」という声かけをされると、人によってはそれだけで十分セクハラになるのではないか。

また結婚を望まない人やレズビアンやゲイにとっては職場に独身社員の結婚を斡旋する部署があるだけで、毎日出社するのが苦痛になるだろう。

労働者の意に反する上司の性に関わる言動は、従業員の就業環境を不快にしたり、就業に支障を生じたりすることにもなりかねず、「環境型のセクシュアル・ハラスメント」に該当する。

婚活についてはこれまで自治体主導で取り組まれてきたが、2016年6月「ニッポン一億総活躍プラン」の閣議決定により、企業・団体・大学等など地域全体が結婚応援をしていかなければならないとされ、自治体と地域企業や大学との連携を求める動きが加速している。

上であげたような例が全国各地で進行しているのだ。しかも婚活の現場を取材すると、「結婚っていいよね」「いいことやっているから楽しい」などと同じ思いで突っ走る傾向も散見し、セクハラ、パワハラがあちらこちらで起きているのではないかと懸念される。

安倍政権が「官製婚活」に税金を投入し始めて今年でちょうど5年になる。

官製婚活とは、少子化対策のために国が交付金を出し、全国の自治体が行う婚活支援のこと。官製婚活とは一体何だったのか。

官製婚活に、企業はどのように巻き込まれたのか。官製婚活は私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか、実例を通して見ていこう。

企業や団体が次々と巻き込まれている
官製婚活には、2013年より18年度まで毎年3〜40億の少子化対策の交付金が確保され、このための事業は、2015年には北海道から沖縄までの全国47都道府県に及んでおり、その事業数は353に達している。

事業の種類は、@お見合い型マッチング、A婚活パーティ・出会いイベント、女子力アップ、自己PR術などの婚活セミナー、B中高大学生に向けて「卵子の老化」や結婚適齢期の知識を教えるライフプラン教育。

これらはいずれも、少子化対策には「20代の結婚や出産を増やす」ことが必要として盛んになっている。

また、官製婚活は、地方活性化や地方創生というアベノミクスの経済政策の一環として行われているため、婚活支援企業との連携のみならず、婚活事業への協賛や協力などという形でホテルやレストラン、旅行業者をはじめとする一般企業の巻き込みに拍車がかかっている。

勤め先の会社が婚活の協賛企業になれば、婚活とは関係ないと思っていた人も会社で婚活セミナーを催したり、社員に婚活に参加するよう婚活メンターをやらなければならなくなったりする。

婚活は、企業や団体で働く人にとって、他人事ではないのだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55627