カモを探していた
女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズが経営破たんした問題は、同社が融資する金融機関に提出した審査書類などに改ざんが発覚、物件を所有するオーナー支援の被害弁護団は、5月14日にも刑事告発する準備を進めており、大型経済事件に発展するのは確実だ。

改ざんしたのは、スマートデイズや販売代理店の幹部や担当者である。

「かぼちゃの馬車」は、オーナーに不動産を仲介、建設費用込みで銀行ローンを組ませ、シェアハウスを建設のうえ、運営会社のスマートデイズが一括で借り上げ、家賃を長期保証するサブリース事業。利回りは8%前後と高く、平均で1億円といわれるローンを組み、3%台後半の利息を払っても、十分に利益が出るとして、人気が高かった。

だが、スマートデイズが事業の長期継続を考えていたかは疑問。不動産売買や建設過程で業者にキックバックさせるのが慣例化し、平均で35%にも達していたという。その分は家賃に上乗せするから割高になる。

結果的に、駅から「遠・高・狭」という物件が多くなり、入居率が5割に満たないところが続出、物件の仲介料や中抜き料で家賃保証分に回す自転車操業に陥り、金融機関にも見放されて、経営破たんに至った。

スマートデイズは、2012年の設立ながら、短期間に販売代理店網を確立して急成長、わずか5年で売上高300億円を超える企業に成長した。

その裏で、必死に“カモ”となるオーナーを探していた。審査書類の改ざんは、「頭金ゼロでも大丈夫」と、オーナーの関心を集めるために行ったもので、断末魔の企業にありがちな犯罪だ。

ただ、この事件が特異なのは、偽造・変造の書類提出を受けたという意味では被害者の金融機関が、単純にそうは言い切れず、むしろ主導的な役割を果していたのではないか、と思われる点である。

融資金融機関は、静岡県沼津市に本店を置くスルガ銀行である。

創業130年の老舗地銀で、創業家の岡野家が経営権を握り、85年、当時40歳の若さで地銀最年少頭取となった岡野光喜氏がいまも会長として君臨。預金残高4兆760億円、貸出残高3兆2860億円で地銀中位の銀行ながら、収益力は抜群で貸出金利回り3・6%を誇る。

その収益力に注目する森信親金融庁長官が、かねて「特異なビジネスモデルで継続して高収益をあげている」と評価。それが、投資用不動産購入資金を融資するパーソナルローンで、この5年で急拡大、17年末には9000億円を突破した。

つまり、スマートデイズの創業からの急成長は、スルガ銀行の与信とセットになっているわけで、同社が仲介したオーナーの被害金総額は1000億円を超えると見られており、「貸し手責任」は免れない。

しかも、7日、被害弁護団が公開したスルガ銀行行員と不動産業者社員の会話を伝える音源データには、審査書類の改ざんを「黙認」のうえ「誘導」する発言が残されていた。

「あんまりオフィシャルには言えないですけれど、○×(販売代理店)さんは、そういう(改ざんの)依頼を受けることが多いから、彼に勝手に電話して2人でやって、という話はしますよ」

地銀の未来はどうなるのか…
早くからこの事件に関わり、3月末に集団提訴した被害者代理人の加藤博太郎弁護士は、次のような見解を示す。

「本件のスキームは、スルガ銀行なしには成り立ちません。破たんする可能性を認識しつつ、回収できると思ったし、貸すメリットがあるから貸した。しかも、高額な物件を売りつけておカネを抜き、最後は計画倒産するような詐欺的スキームはほかにもあって、そこにもスルガ銀行は貸している。銀行全体の問題というしかありません」

確かに、スマートデイズが中核としていたのは横浜東口支店だが、同様の審査資料の改ざんは、渋谷、新宿、二子玉川などかなり数の支店で行われており、それは他のサブリース業者も同じ「スルガ銀行利用スキーム」を持っているからだ。

賃料保証という過大広告でオーナーをつのり、キックバックを折り込んだ高額物件を売りつけ、しかも書類偽造までして販売物件を増やし、最後は自転車操業に陥って倒産する、というスキームが数多く見られるのは、告訴・告発を受けた捜査当局が、スマートデイズ事件としてスタートしても、やがて「スルガ銀行事件」に移行することを意味する。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55610