奨学金なしでは大学に行けない
奨学金問題が社会の焦点となっている。このことは奨学金制度の変化に加えて、社会の急速な貧困化と雇用の劣化を背景としている。

バブル経済崩壊後の経済状況の悪化、新自由主義グローバリゼーションの進行は日本型雇用を解体し、非正規雇用の増加と正規雇用労働者の待遇悪化という事態をもたらした。全世帯の平均所得は、1996年の661万円から2014年には545万8000円に減少している(厚労省「国民生活基礎調査」)。

「子どもが成長する頃には賃金が上がる」年功序列型賃金制度の解体によって、奨学金を借りることなしには、子どもを大学に通わせることが困難な家庭が増加した。

全大学生(学部生・昼間部)のなかで奨学金を利用している者の割合は、1996年の21.2%から2014年には51.3%に上昇している(日本学生支援機構「学生生活調査」)。世帯の平均所得の減少と奨学金利用率の上昇の時期が、ぴったりと重なっている。

現在の奨学金は、以前のように経済的に厳しい状況に置かれた少数の学生に限られた問題ではなく、大学生の過半数に関わる問題となった。現在では、奨学金を利用することなしには大学進学できない学生が多数を占めるようになったのである。

奨学金制度の金融事業化
奨学金利用者が増加したことに加えて、奨学金制度も大きく変化した。

無利子奨学金から有利子奨学金への移行が進んだのである。1984年の日本育英会法の全面改定によって、奨学金に有利子枠がつくられた。

有利子貸与奨学金の増加に拍車をかけたのが、1999年4月に出された「きぼう21プラン」であった。

ここで有利子貸与奨学金の採用基準が緩和されるとともに、貸与人数の大幅な拡大が図られた。2001年には有利子が無利子の貸与人数を上回った。

そして、2004年に日本育英会は廃止され、日本学生支援機構への組織改編が行われた。日本学生支援機構は奨学金制度を「金融事業」と位置づけ、2007年以降は、民間資金の導入も始まった。

この過程で1998年から2013年の間に有利子の貸与人員は約9.3倍、事業費は約14倍にも膨れ上がった。

同時期に無利子の貸与人員は約1.6倍、事業費は約1.7倍しか増加せず、この間に奨学金制度の中心は無利子から有利子へと移行したことになる(図1、図2)。
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日本の奨学金制度を今後改善していく際の重要なポイントは第一に、現在の貸与中心から、給付中心の奨学金制度に変えていくことである。

世論の高まりを受けて、政府は2016年12月に返済不要の給付型奨学金導入を決定した。

住民税非課税世帯の1学年2万人が対象で、2018年度から開始される。私立大学の下宿生や児童養護施設出身者ら約2500人については、2017年度からすでに先行実施されている。

この給付型奨学金の導入は、これまで「貸与のみ」であった奨学金制度を改善していく重要な一歩である。

しかし、現在は対象人数、給付額も極めて限定されたものにとどまっている。たとえば給付される1学年2万人という数は、2016年度の日本学生支援機構の貸与者数約132万に対して、ごく少数である。

現在では奨学金利用者は、大学進学者の半数以上となっている。

日本型雇用の解体による親の所得低下によって、中間層を含む多くの世帯が、子どもの学費を負担することが困難になっていることを見逃してはならない。

ごく一部の貧困層のみを救うという視点だけでは、現在の教育費問題を解決することはできないのである。

重要なのは、今回の給付型奨学金の導入をきっかけとして、対象人数の増加や増額を行い、給付中心の奨学金制度を実現することである。

これから給付中心の奨学金制度を実現するには、そのための財源が必要である。給付型奨学金制度を拡充するための財源をどこに求めたらよいだろうか。

給付型奨学金は、「生まれによる格差」を是正することが重要な目的であるから、経済的にゆとりのある富裕層に対する課税によってその財源をまかなうというのが、最も理にかなっている。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55014