誰でも試験なしで大学に入れるようになる――。そう聞くと耳を疑うかもしれないが、今年から深刻化していく18歳人口の減少は、現在の教育システムを一変させるほどのものだ。

受験者が20万人減った
いま大学関係者たちが「2018年問題」と呼ばれる難問に頭を抱えているのをご存知だろうか。これは'18年をメドに、18歳以下の人口が加速度的に減少していき、この少子化が日本の教育機関の運営に致命的なダメージを与える事態を指す。

すでに地方の私立大学では、学生が集まらず定員割れを起こしていたり、経営が立ちゆかなくなって「倒産」に追い込まれたところも出てきているが、2018年問題の余波はこれだけにとどまらない。

このまま子供の数がどんどん減っていけば、都心部の大学――いや、難関とされてきた早稲田大学や慶應義塾大学であっても定員割れが起こる可能性が十分にあるのだ。

このことがやがてどのような深刻な事態を招くのか。順を追ってみていきたい。

まず、日本の18歳人口がピークに達したのは'66年で、いわゆる「団塊の世代」249万人が18歳を迎えたときのことだ。ここから'90年代に入るまで、日本はゆるやかに少子化の一途をたどる。

学生の大学進学志向が高まっていったのは'70年代後半から'80年代にかけてのことだ。俗にいう「受験戦争」は年々熾烈になり、1浪や2浪が当たり前の時代、予備校には学生があふれかえった。

そして'92年は「団塊ジュニア世代」205万人が18歳を迎え、大学受験者数はピークに達した。

早大や慶大だけでなく、明治大学や立教大学などいわゆる「MARCH」に区分される大学にも受験者が殺到。倍率は20倍、人気学部に至っては30倍を超えることも珍しくなかった。

受験会場の大教室から合格者が一人も出ない、そんな厳しい現実が受験者を待ち受けていた凄まじい時代だった。

だが'92年以降、少子化の影響は徐々に色濃くなっていった。18歳人口は減り続けていき、'17年度には約120万人と、ついに団塊ジュニア世代のピークから4割以上も減少してしまったのだ。

大学志望者数は'90年代の受験戦争最盛期を過ぎてからも大学への進学志向が年々強まったためにゆるやかな減少にとどまったが、それでもここ20年で20万人ほど志望者が減少したと推計される。

そして'18年以降、18歳人口と大学志望者数は加速度的に減少していき、その数が回復することはない。高等教育総合研究所代表取締役の亀井信明氏は次のように語る。

「18歳の人口は、'24年ごろまでにさらに12万〜13万人減るといわれています。大学進学率が5割強であることを踏まえると、大学進学者はいまより6万人ほど減少するでしょう。

現在大学入学者数はおよそ60万人ですから、そこから10%も学生がいなくなると考えれば、大学教育には大きな変化が生じることになります。

もちろん、すでに定員割れを起こしているような大学であれば、廃校を余儀なくされるところも出てくるでしょう」

大学の数は逆に増えた
その傾向はすでに私立大学に顕著だ。日本私立学校振興・共済事業団の調査によると'17年度の大学入試では、なんと私大の39%が「定員割れ」を起こしているという。

地方の私大や女子大では公立化を図って学費を値下げしたり、定員を絞ることで見かけ上の定員割れを防ぐなど試行錯誤しているが、18歳人口が今後増えることはないと考えれば、抜本的な解決策とはいえない。

そもそも少子化が進むことがかねてから予想されていたにもかかわらず、ここ20年で大学の数が年々増加するという不可思議な現象が日本では起こっていた。

'88年度には490校だった日本の大学は、'17年度には780校と2倍弱も増えた。このミスマッチが、望めば誰でも大学に入れる「全入」時代を生み出すきっかけにもなった。

そのような大学教育機関全体の「失敗」に、政府も建設的な解決策を打ち出せないでいるのが現状だ。今年1月、政府が東京23区内の大学の定員増を10年間認めないとの方針を打ち出し、物議を醸した。

梶山弘志地方創生相は学生が都市部へ一極集中することを是正するためと説明したが、小池百合子都知事は「日本の大学の国際競争力がさらに弱くなるだけ」と猛反発している。

だがよく考えれば、人口減少の問題点が指摘されはじめた20年前ならまだしも、もはや激減中の'18年に定員数でさや当てを演じたところで、遅すぎるとわかるはずだ。それだけ問題は深刻化しているのだから。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54523