18歳人口の減少が影響をおよぼすのは、早大や慶大などの難関私大にとどまらない。

最高学府として学歴社会の頂点に立ちつづけている東京大学も、その存在意義が危ぶまれることになる。

「かつて東大は、いくら小手先の受験のテクニックを磨いたところで簡単に入ることはできない大学でしたが、いまはそうでもなくなってきました。

東大の出願者数は学部によってはむしろやや増えていて、倍率もセンター試験での高得点が求められるためにほぼ一定に保たれていますが、東大の教員は『生徒のレベルが昔と比べて下がった』と言います」(教育ジャーナリストの小林哲夫氏)

並大抵の努力では到達できず、まさに選ばれし者があの赤門をくぐることを許される――。誰もがそのようなイメージを持つ東大でも、すでに学力低下は現場レベルで顕著になってきている。

これからの東大の教育水準とブランド力を案じ、本当に優秀な中高生のなかには、すでに目標を「海外」へとシフトしている人も少なくない。

高等教育総合研究所代表取締役の亀井信明氏は次のように語る。

「少子化の影響によって、東大や京大はいままでよりも入学しやすくなっていくでしょう。今後東大の学力低下が進めば、将来の日本を背負って立つような人材は日本の教育に魅力を感じず、刺激を求めて海外に流出してしまうことになります。

高校教育の現場でも、すでに東大ではなく海外トップレベルの大学を目指すようなカリキュラムを取り入れる私立学校が増えてきています。

たとえば千葉県にある渋谷教育学園幕張中学・高校からは、イェールやプリンストンといったアイビーリーグに名を連ねる大学に何人もの進学者を出しているのです」

イギリスの高等教育専門誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション」が毎年発表している「世界大学ランキング」の'18年版によると、東大は前年より7つ順位を落として世界46位となった。

'04年には12位だったことを考えれば、その凋落ぶりは明らかだ。アジアだけで見ても、シンガポール国立大学や北京大学の後塵を拝し、8位という順位に甘んじている。

海外における東大の地位の低下の原因は、そのカリキュラムにもある。著書に『大学大倒産時代 都会で消える大学、地方で伸びる大学』がある教育ジャーナリストの木村誠氏は次のように語る。

「東大は英語で行う授業が少なく、専門知識を英語で教えるスキルも世界トップレベルではありません。ということは、東大に留学してくる海外の学生は研究のためにわざわざ難易度の高い日本語を勉強しなければならず、重い負担になります」

だから欧米人は言うに及ばず、かつては大量の留学生が来ていた中国でも、エリートはアメリカの大学を目指す。

いきおい、日本に来るのは東南アジアからの留学生が増えるのだが、日本語習得のハンデをものともせずやってくる留学生に、日本の東大生は歯が立たない。

逆に言えば、彼らと伍していける本当に優秀な日本人学生にとって、東大は海外進学の「滑り止め」でしかない。

学歴と就職が無関係になる
そんな時代の流れを考慮してか、東大は'16年度より推薦入試制度を導入した。厳しい受験勉強をしなくても、推薦で入れるなんて夢のようだと一瞬考えるかもしれないが、実際には3年連続の「定員割れ」。なぜなのか。

「東大の推薦入試は募集条件が非常に厳しい。数学オリンピック出場が条件の1つにあるが、利用する人がほとんどいません。こういう数学秀才は、普通に受験しても合格できますから」(前出・小林氏)

その条件の厳しさには賛否両論あるが、学生の総数が減ればそのぶんハードルを下げざるを得ない。やがて推薦枠が東大に入るいちばんの「近道」になるのかもしれない。

それでは、簡単に入れるようになった東大に、学生は魅力を感じるのだろうか。

ここでネックになるのは、東大生の就職率が偏差値に見合わず芳しくないことだ。これまで、「東大卒」という肩書を手にすれば、企業のほうから引く手あまた、まさに勝ち組だった。

それがここ最近、「東大生はアタマはいいかもしれないが、採用しても役に立たない」というような声が上がることも少なくない。

「東大の弱点は日本社会の弱点と同じで、同一性を重視してチームワークで物事に取り組むことを学生に推奨するきらいがあるところです。

東大を中退して起業する人が増えたように、東大という学歴を足場として出世しようとする学生も少なくなってきました。学生の価値観の多様化を、いまの東大は吸収しきれていないのが現状です」(前出・木村氏)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54524