文藝春秋ノンフィクション出版部
上場企業に対して、毎年公開が義務付けられている決算書。一見、数字の羅列に見えるなかに企業の「本当の姿」が潜んでいる。

公認会計士の前川修満氏が、ソフトバンクや三越伊勢丹、ZOZOTOWN(スタートトゥデイ)などの話題の企業の決算書を読み解きながら、本当に優良な会社を見抜く方法を紹介する話題の書『やっぱり会計士は見た!』では、事業ごとに利益を細分化し、「本当の姿」を見る方法が紹介されている。

今回はその手法を使って、「めちゃイケ」や「みなおか」など長寿番組を次々と終了させるフジテレビの決算書を読み解いてみよう。前川氏の指摘通り、事業ごとに見ていくと、「もはや変革まったなし」という同局の厳しい状況が見えてくる。

  放送事業の利益が激減
今年春の番組改編に向けて、フジテレビが行った決断は大きな話題を呼びました。

とりわけ注目されたのが「めちゃ×2イケてるッ!」(めちゃイケ)、「とんねるずのみなさんのおかげでした」(みなおか)という長寿バラエティ番組を3月で終了させることです。

「めちゃイケ」は20年以上、「みなおか」は前身番組時代を含めて約30年の歴史を持ち、どちらも全盛期には20%以上の視聴率を誇っていました。

国民的番組と言ってよいでしょう。しかし近年は視聴率が一ケタに落ち込む回が多く、打ち切りのウワサが絶えませんでした。そして昨年11月、フジテレビはとうとう打ち切りを決めます。

この大きな決断の裏側をのぞくために、決算書を読んでみました。そこには今回の選択にいたる根拠となる「数字」がはっきりと記されているのです。

フジテレビの親会社フジ・メディア・ホールディングス(以下フジHD)は放送事業をはじめ、制作事業や映像音楽事業など主に6つの事業を営んでいます。そしてフジテレビは放送事業の中核を担う子会社という位置づけです。

さっそくフジHDの2017年3月期の事業種別の「売上高」と「セグメント利益」を見てみましょう。放送事業は3127億円の売上を記録し、事業別で最も多くの収益を稼いでいます。その一方で「セグメント利益」を見ると68億円となっています。

同年3月期のフジHD全体の純利益は273億円なのですが、この事業別利益を見ると、都市開発事業が109億円の利益を上げており、「稼ぎ頭」になっています。

都市開発事業とは、サンケイビルを始めとした、いわゆる不動産事業です。実際にサンケイビルではこの年、「主力のビル事業が堅調に推移し」、「住宅事業も販売戸数が増加」。その結果、売上高、営業利益ともに過去最高を記録しました。

つまりフジHDでは(少なくとも利益の面で)グループの主要事業が、放送事業から都市開発事業に移っていることが分かります。

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最近5年間の放送事業と都市開発事業の売上高とセグメント利益の推移を見ていくと、このことがより明確になります。

放送事業は2013年3月期には3520億円の売上があり、253億円のセグメント利益を上げていました。それが毎年のように減少を続け、前述の通り2017年3月期には売上3127億円、セグメント利益68億になりました。

その一方で都市開発事業は2013年3月期には売上401億円で、セグメント利益54億円という規模でした。それが急成長を遂げ、2017年3月期に売上、利益ともに倍以上の1025億円、109億円に達しました。

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振り返ればフジテレビは2004年〜2010年まで7年連続で年間視聴率トップを維持し、放送業界の雄として君臨してきました。

しかし2011年に日本テレビに首位を奪われて以降は、視聴率争いで低落傾向が続き、その後はテレビ朝日やTBSにも抜かれるようになりました。放送事業にとって視聴率の低下は、最も貴重な収入源である広告料収入の減少を意味します。このことがこの5年間での放送事業の売上、セグメント別利益の減少を招いたことは間違いありません。

続きます