法制審議会(法相の諮問機関)の会社法制部会(部会長・神田秀樹学習院大院教授)は14日、会社法改正の試案を正式にまとめた。1人の株主が株主総会で提案できる議案数を最大10までに制限するなど株主提案権の乱用的行使を防ぎ、企業と株主の対話を促す。社外取締役の設置については義務付ける案と現行のまま義務付けない案の両論を併記した。

 パブリックコメント(意見公募)を経て、2018年度中に要綱案をまとめる。政府は19年の通常国会に会社法改正案の提出をめざす。

 試案の柱の一つが株主総会の手続きの合理化だ。1人の株主が提案できる議案数を5までにする案と、10までにする案を示した。企業が内容によって提案を制限できる判断基準も示した。1人の株主が、他の株主を困惑させるような内容の議案を大量に提案するといったケースを防ぐ。

 キリンホールディングスの伊藤彰浩常務は「株主との適切な対話が促され企業と株主の双方にメリットがある」と話す。過去に株主提案を受けたサービス業の企業は「提案数を制限しても1つの提案に複数の内容を盛り込む場合もある」と実効性に疑問を呈した。

 総株主の議決権の1%以上、または300個以上の議決権を6カ月以上前から持つという権利行使できる要件は見直さず「なお検討する」と言及するにとどめた。過度な提案の制限は避け、株主と企業の双方のバランスをとった。

 株主総会の招集通知の発送期限は、現在の総会の2週間前を維持する案と、3週間前か4週間前に前倒しする案を示した。株主総会に際して株主に送る事業報告書などの資料は、株主の承諾を得ずにインターネットで提供できるようにして、企業負担を軽くする。

 投資家は招集通知の前倒しを歓迎する。三井住友アセットマネジメントの斉藤太スチュワードシップ推進室長は「議決権の賛否について社内で議論する時間が増える」と話す。企業からも「株主が会社の状況を把握する時間が増え、質の高い対話につながる」(建設資材の岡部の広渡真社長)との声があった。

 もう一つの柱の取締役会の改革では、社外取締役の設置の義務付けが焦点だ。義務付けで経営の監視機能が高まるとの期待があるが、東京証券取引所の上場企業の9割超がすでに社外取締役を設けており、あえて義務付ける必要はないとの見方もある。試案では両論併記にとどまった。

 15年施行の改正会社法は付則で、施行から2年後に、社外取締役の選任状況などを勘案して設置義務付けの再検討を促した。今回の改正の議論はこれを受けたものだが、田中亘東大教授は「義務付けは時期尚早で、現行の法制下で企業経営にどのような影響が生じているかなどの検証が必要だ」と指摘する。

2018/2/14 17:55
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26884680U8A210C1EA1000/