2月に入って世界の株価が急落した。特にニューヨーク証券取引所のダウ平均株価は、6日に下げ幅としては史上最大の1175ドルを記録した。その後は値を戻したが、かつての勢いはない。市場にも「上がりすぎた株価の健全な水準訂正だ」という評価が多い。

 これに連動して、日経平均株価も大きく下がった。2008年の「リーマンショック」ほど深刻な影響は見られないが、アベノミクスによる金余りで続いてきた相場に冷や水を浴びせたことは間違いない。この後に来るのは、世界的な景気後退だろう。

「恐怖指数」が暴落の引き金を引いた
 ダウ平均の暴落の原因は、1987年の「ブラック・マンデー」と似ている。このときはコンピュータで自動的に取引する「プログラム取引」が原因だといわれた。このときは値下がりした株をコンピュータが自動的に売る仕組みだったのに対して、今回はVIX(volatility index)という指数が原因だというのが多くの専門家の見方だ。

 これは株価の変動幅が大きくなると上がる指数で恐怖指数とも呼ばれるが、6日には2倍以上に急上昇した。これによってその逆指数オプションを組み込んだファンドが90%以上も値下がりしたことが、暴落のきっかけだったという。

 VIXは「株価が大きく変動する」という指数だから、その逆指数ファンドは、顧客に「値下がり保険」を売っているようなものなのだ。普段はもうかるが、株価が暴落するとVIX逆指数ファンドは大きく値下がりする。これによってコンピュータが株を自動的に売り、それがさらに値下がりを呼ぶ・・・という悪循環になる。

 このプログラムが発動されると一瞬でファンドの株式をすべて売って債券を買うので、ニューヨーク証券取引所の暴落が起こったのは、10分ほどの間だったという。

 機関投資家のもっているVIX逆指数ファンドの残高は1500億〜1750億ドルにのぼり、売りが売りを呼ぶリスクが大きい、とIMF(国際通貨基金)は警告していた。リーマンショックを生んだのは不動産担保証券というデリバティブ(金融派生商品)だったが、今回もVIXというデリバティブがショックを引き起こした疑いが強い。

世界的な金利上昇で取り残される日銀
 ただ今回の値下がりは、リーマンショックのような構造的なものではなく、上がりすぎた相場で市場参加者が「売り場」を求めていたという見方が多い。

 アメリカの株価はトランプ大統領の積極財政を予想して値上がりが続いてきたが、大幅減税で財政赤字が膨らみ、インフレで長期金利が上がる懸念が出てきた。FRB(連邦準備制度理事会)は政策金利を引き上げる方針を表明しており、長期金利が上がり始めていた。株式の理論価格は債券との裁定で動くので、金利が上がると株が売られるのは当然だ。

 この点では、日本への影響は限定的だろう。日本国債の40%以上は日銀が保有しており、金利が上がりそうになったら日銀が買えばいいからだ。日経平均もダウ平均に比べると割安だといわれ、大幅に下がるとは思えない。

 しかし株価は、経済の体温計にすぎない。上がっていた熱がちょっと冷めたからといって、病気が直ったわけではない。日本の病はアメリカより深い。金利と物価が連動するアメリカに対して、日本はマイナス金利を続けても、物価も成長率も上がらないからだ。

 厄介なのは、日銀の量的緩和が失敗に終わって「出口戦略」が話題になっているとき、景気に不安が出てきたことだ。教科書的なマクロ経済政策では、こういうとき金利の引き下げで対応するが、日本の政策金利はこれ以上は下げられない。長期金利も「イールドカーブ・コントロール」でゼロ近辺に抑えている。

 これから世界的には金利上昇局面になるので、日本だけマイナス金利がいつまでも続けられるとは思えない。日銀が国債を無理に買い支えると、日銀だけではなく民間銀行も含み損を抱えるので、金利が正常化したとき大きな評価損が出る。
以下ソース
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52312