忘年会シーズンです。上司にとっては部下と腹を割って話をする機会になるでしょうが、飲み会への参加を無理強いすれば「パワハラ」と言われかねません。部下とのコミュニケーションの取り方に悩む38歳の係長の事例を、特定社会保険労務士の井寄奈美さんが解説します。【毎日新聞経済プレミア】

 A輔さん(38)は中途入社10年目で、20代の部下3人を持つ企画部の係長です。部下とのコミュニケーションの取り方に悩んでいます。

 ◇だれよりも早く出社する上司

 A輔さんの上司のB部長(52)は、会社で1、2を争うくらい早く出社する人でした。出社すると湯を沸かし、職場で共有しているポットに補充します。そして茶をいれて、始業までに新聞4紙を読み終えるのを習慣としていました。

 A輔さんは、現在の部署に異動して3年になりますが、当初からできるだけ早く出社するようにしていました。皆で使うポットの湯の補充を上司にさせるのはどうかと考えていたからです。

 昨年初めて部下を持ったとき、B部長が早出するので自分もそうしていることを部下に伝えました。しかし部下からは「早く来て何をするんですか? そうしろと言われればできますが、それは残業扱いになるのですよね」と言われ、驚いてしまいました。その後、増えた部下も同じような反応でした。

 A輔さんは部下に早出を強制することはありませんでしたが、早出は自分にとってプラスだと考えていました。始業前の人が少ない時間帯にB部長に仕事の相談をすることもありましたし、始業前ギリギリに出社して慌てて仕事を始めることもないからです。

 ◇部下を飲み会に誘うが……

 A輔さんは自分の部下たちと話をしたいときに、どのタイミングがよいか悩んでいました。もちろん業務時間中にもできますが、通常は顧客への対応や会議、他部署との調整などあり、腰を据えて話す時間を取ることができません。会社からは残業削減が厳しく命じられているため、業務だけで精いっぱいという事情もありました。

 そこで、週に1回のノー残業デーの終業後に「一杯飲みながら話をしないか」と部下を誘うことにしました。B部長も若手とじっくり話をしてみたいと言っていたので声をかけました。

 ところが部下たちからは、「プライベートの時間と仕事の時間の区別をきちんとしたいので、終業後は困ります。仕事の話でしたら業務中にお願いします。飲み会への参加を強要するのはハラスメントにあたりますよね」と言われたのです。

 A輔さんは日ごろから、部下たちが気持ちよく仕事ができるように気遣いをしていましたが、さすがにこの部下の言葉にはムッときました。B部長が楽しみにしていたこともあり、このときばかりは「君たちは自分だけで仕事をしているつもりなのか」と声を荒らげてしまったそうです。

 結局、飲み会は行いませんでした。A輔さんは部下がそうした考えであれば仕方がないと自分を納得させようとしています。しかし今後、部下が異動して他の上司についたときうまくやれるか、どう評価されるかと考えると、このままでよいのかどうか悩んでいます。

 ◇早出を命じた場合は賃金支払い義務

 厚生労働省が職場のパワーハラスメント(パワハラ)を防止するために情報提供するウェブサイト「あかるい職場応援団」では、職場のパワハラを「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます」と定義しています。

 部下が嫌がっているにもかかわらず、終業後の飲み会への参加を繰り返し強要したり、参加しないことに対して暴言を吐いたりすると、パワハラと捉えられるケースがあります。

 早出出勤は、業務上必要であれば業務命令で行うことは可能です。ただし、「業務命令=労働時間」ですので、賃金の支払い義務が生じます。

 A輔さんのケースでは、職場のコミュニケーションの取り方や、そもそもコミュニケーションの必要性について個々人や世代で考え方が違うことを認識しておく必要があります。上司側から伝えたいメッセージがあっても、部下側がそれを受け入れる気持ちになっていないと伝わりません。

 管理職には、「これまではこうしていた」「自分ならこうする」という考えから一旦離れて、どうすれば伝えたいことが部下や若手社員に伝わるかを試行錯誤することが求められます。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171223-00000017-mai-bus_all