トルコ経済の減速感が強まっている。対米関係の悪化や経常赤字の拡大を警戒して通貨安が進行。公共支出増による財政規律の緩みは債券売りを招いている。トルコ経済の成長には海外からの資金が欠かせず、先行きは不透明さを増している。

 「多くの企業で手元に現金がない。商業、製造業の別なく経営者は極力支出を抑えている」。最大都市イスタンブールを拠点に海産物の輸入を手掛けるバシャラン・アランチ氏は通貨リラの急落に伴う景況悪化を嘆く。

 ユーロやドル建てで仕入れた商品をリラで売るが、リラ安に伴う損失を価格に転嫁できず利益は減る。顧客からの入金も遅れるなど債権の焦げ付きリスクも増している。

 リラの対ドル相場は年初から約10%下げた。27日も1ドル=3.9リラ台と過去最安値圏で推移した。主因は対米関係の悪化だ。両国はシリア情勢や、2016年のトルコでのクーデター未遂事件を巡って溝を深めた。足元では対イラン制裁に違反したとして米国で起訴されたトルコの実業家の初公判が迫り、政権や金融界を巻き込む醜聞になる恐れがあるとの臆測がリラ売りに拍車をかけた。

 天然資源に乏しいトルコは原油や天然ガスを輸入に頼る。原油価格の持ち直しで経常赤字は拡大している。ガソリンの相次ぐ値上がりなどで10月のインフレ率は前年同月比11.9%増と3カ月連続で10%を突破した。

 インフレ抑制とリラ安阻止には利上げが一般的な処方箋となるが、強権的な体制を敷くエルドアン大統領が「高金利が高インフレの原因」と公言する中では、中央銀行は身動きがとれない。

 足元では債券や株式からの資金流出は鮮明だ。2年物国債の利回りは一時14%に上昇(価格は下落)しインド、ブラジルなど主な新興国との金利差は開いた。年初から大きく上げた株式相場も足元は下げが目立つ。

 内政では財政規律の緩みが懸念される。17年の政府の借り入れ上限は522億リラ(1兆4800億円)。公共支出拡大ですでに半年で465億リラを借り入れ、28日にも上限引き上げの法案を国会が承認する。国内総生産(GDP)に占める中央政府の財政赤字は16年に1.1%だったが、17年には2%に高まる見通しだ。

 トルコ経済は海外からの借り入れに依存する。政府と民間の対外債務は計4323億ドル(48兆円)と過去10年で倍増。米欧の金融緩和縮小に伴い、海外投資家は投資先の選別を強めており、経常収支と財政の「双子の赤字」を抱えるトルコは投資引き揚げの対象になりやすい。

 17年の実質成長率は政府目標の5.5%を達成する見通しだが、18年は4%前後に減速するとの見方が多い。3月に大幅拡充した信用保証基金は上限が近づいており、銀行の預貸率も上昇。政府は景気下支えの余力を失いつつある。

 対米関係の改善を巡り24日の大統領間の電話協議で、トルコ側はトランプ米大統領が懸案のひとつであるシリアのクルド人勢力への武器支援停止を表明したと発表したが、為替相場は材料視せず反応しなかった。19年の大統領再選に向け、国粋的な有権者の歓心を買うため、エルドアン氏は米欧向けに過激な言動を続ける可能性が高く、抜本的な関係改善は望みにくい。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23944970X21C17A1FF2000/