元「ひきこもり当事者講師」による在宅プログラミング講座を始めた運営会社が、当事者たちを雇用して、一緒に新たな会社設立を検討している。

 引きこもり当事者たちと一緒に新たな事業を企画しているのは、「1日速習」講座などのビジネス研修を手がけるフロンティアリンク株式会社(東京都千代田区)社長の佐藤啓さん(44)。同社では2007年から、エクセルやパワーポイント、ホームページ作成などのビジネス向けセミナーが1日で完結できる講座を全国16ヵ所のセミナールームで開催。また、自分のペースで自宅でも受講できる全国でも珍しい双方向リアルタイムのシステムや、1講座3万円前後の料金という手軽さから、年間約5000人が受講してきた。

 佐藤社長と引きこもる人たちとの交流が始まったのは、今年4月の『ひきこもりフューチャーセッション「庵―IORI」』に参加したことがきっかけだった。

「子どもの頃によく遊んだ従弟2人が、15年くらい引きこもり続けていて、ずっと気になっていたんです」

 佐藤さんは、「引きこもり」に関する情報をネットで収集。文献などから、引きこもっている人たちは潜在能力が高いことに目を付けた。

 ちょうど同社でも、ITエンジニアを募集していた。在宅でもできることから、引きこもる人たちを雇用できれば、社会貢献にもつながると思った。

「引きこもり界隈につながりたかった。でも、外から引きこもり界隈の情報を取ろうと思うと、かなり大変な状態でした。だから、池上さん(筆者)の本に出てくる庵に、まずは参加してみようと思ったんです」

 初めて庵に参加してみた佐藤さんは、衝撃を受けた。これまでの経営者人生で、あまり自分が接することのない考え方や価値観が、そこにはあった。それは新鮮ではあったが、言われてみれば、その通りだなと思うことも多く、すっかり魅力に取りつかれたという。

「当事者の方々やご家族の話を聞くことによって、ふだん自分ができていないこととか、気をつけていなかったことで新たに見えてきたこととか、色々気づかされることが多い。単にプログラムを広めたいとか世の中に貢献したいとかもありますが、自分自身が経営者として育てられているな、という気がするんですよ」

 ちょうど4月の庵の対話テーブルには、「“居場所”と“はたらく場”の間」というテーマがあった。佐藤さんもアイデア的なものを話したところ、たくさんのフィードバックがあった。

 終了後、参加者の元当事者男性からメールが届いた。

 会社の社長がこういう場に来ていて感動した。もともとプログラミングしていたので、講座を立ち上げるのなら一緒にやりたい、という趣旨だった。

 その出会いがきっかけで、元当事者男性は現在、同社に雇用されている。その後、庵の運営ミーティングで出会った別の元当事者男性にも声をかけ、在宅プログラミング講座のモニターをお願いし、同社で採用した。

 ちなみに、佐藤さんの会社も完全テレワークで、通勤する必要はない。打ち合わせも出退勤の申告もスカイプを使って行っている。

ITと「引きこもり」のコラボに
アンテナが引っかかった

 同社の教育事業部に勤める三池愛さん(26歳)も、引きこもり経験者だ。

 二度就職したものの、やりたいことがわからずに将来への不安が生まれ、社会と断絶した。人に会うのが怖くて、ずっと家の中に引きこもる状態で、先が見えなかった。しかし、ITと「引きこもり」というキーワードをコラボさせる発想に興味がわき、時間的拘束のない働き方もあって、自分のアンテナに引っかかった。

「1人になれる時間が欲しいタイプなので、時間の問題はとても大きかったです」
以下ソース
http://diamond.jp/articles/-/147928