「新築信仰」がなくならないワケ

日本の住宅市場においては、長らく「新築信仰」のようなものがあり、中古住宅に比べ圧倒的に新築住宅が選ばれる傾向にある。このことは、住宅市場に占める中古住宅の割合が、アメリカやイギリスでは80%程度であるのに対して、日本では36%程度にすぎないことからも証明できる。

日本の住宅はもともと木造が多く、欧米のように長期間にわたって風雪に耐えられるような造りではないことが、中古市場が広がらない原因の一つと言われてきた。しかし、いまでは「百年住宅」を謳う堅固な木造住宅も登場しているし、また鉄筋あるいは鉄骨鉄筋コンクリート造のマンションも増えている。とりわけ新耐震基準が導入された1981年6月1日以降に確認申請がなされた物件であれば、中古でも耐久性が劣るということはない。

だが、そのような状況を理解していたとしても、いざ中古住宅を買おうと不動産仲介会社を訪れると、その「胡散臭さ」に辟易させられることだろう。

というのも、価格が数千万円もするような商品であるにもかかわらず、比較検討する対象が少なく、営業マンの一方的なトークにつきあわされた挙げ句に、「お客さん、この部屋は二度と出ない物件ですよ。ほかでも検討しているお客がいるので決断は早めに願いますね」などと何の根拠もなく急かされ、勢いで購入を促されることが多いからだ。

不動産仲介業者は、物件を仲介する際、宅地建物取引業法で定められた手数料基準に則って報酬を得ることができる。つまり、業者の稼ぎは成功報酬なので、基本的にはどんな物件でも「売れればよし」ということになる。また報酬料率は、仲介価額を算定の基準とすることが法律で決まっているため、業者にとっては、高額な物件を売るほど実入りが良いわけだ。

ちなみに、物件価格がいくらであっても、仲介に伴う手間暇は変わらないので、業者としては「なるべく時間をかけずに、高値で売りたい」という意識が働きやすい。

いっぽう、仲介を受けて買う側からすると、中古住宅は購入後に修繕の必要な個所がどれほどあって、どの程度の費用が追加としてかかってくるのか、皆目見当もつかない。所有者の生活の汚れがどことなく目につく現場を見て、あまり良い気持ちもしないなかで、「まあいいか」「こんなものだろう」と判断せざるを得ない。

生活用品程度であれば、「まあいいか」で済むものも多いかもしれないが、さすがに数千万円の買い物だとそうはいかない。ということで、なるべく新品のものがよいという結論になるわけだ。

不動産屋の「思惑」を排除する試み

こんな状況に置かれているのは、中古住宅を買う側だけではない。

売る側も似たようなもので、自宅が中古市場でどの程度評価されているのかは、なかなかわからない。インターネットが発達したおかげで、自宅に近い物件や同じマンション内での売り住戸の価格を検索することができるようにはなったものの、自宅とまったく同じ条件というわけではないので、本当に正確なところを把握できるまでには至っていない。

相談に出向くと、仲介業者はなるべく「早く」売れるように、所有者の売却希望価格よりも「低め」、つまりマーケットでは「お得」な価格で売ろうとするのが一般的だ。業者にとっては、無理に高い価格をつけていつまでも売れない、という手間暇をかけたくないからだ。

最近では、こうした状況を打開するために、ビッグデータやAI(人工知能)などのテクノロジーを使って個々の不動産の評価をしようとする試みが行われている。不動産+テクノロジーの造語で「不動産テック」と呼ばれ、注目を浴びている。

具体的には、過去の取引データや将来予測、周辺環境など、さまざまな角度から個々の不動産を分析し、マーケットにおける合理的な価値を算出するものだ。

とりわけ、設備仕様や間取り、面積などが似通った部屋が、同じ建物内に多く存在するマンションのようなマーケットでは、それらをデータ化し、査定価格をはじき出すことが比較的容易にできる。

テクノロジーを活用して、「手間暇かけずに早くさばこう」という仲介業者の思惑を排除することで、フェアな観点から物件を診断し、マーケットでの取引価格をリアルタイムに算出できれば、売る側も買う側も安心して取引に臨めるようになるだろう。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53344