かつてない大波乱の展開となった衆議院選挙は、結局大方の選挙予想通りに、自民党・公明党の与党が総議席の3分の2を超える圧勝となり、安倍政権が継続することとなった。

今後起こる最大の政治的なイベントは9条を中心にした憲法の改正論議であろう。一方で3本の矢としてスタートした「アベノミクス」は、多少の枝葉をつけ加えながらも既定路線の継続が見込まれている。

アベノミクスの実績評価については、エコノミストの数だけ異なる評価が存在するような状態だ。とりわけ金融・財政政策については議論の対立が先鋭化しているが、本稿ではむしろ消費、雇用、所得配分という実体経済面について、その成果と問題について指摘しておこう。

ちなみに私自身は、2012年12月のアベノミクス宣言で、過度な円高の修正、割安圏に低迷していた株価の回復が始まった際、「これで日本経済は好転する」と快哉を叫んだ一人である。

ただし、私は2%の物価目標が実現するまで現行の金融・財政政策を墨守すべきという「原理主義的リフレ派」ではない。経済・金融政策の効果は、それが実施される条件に依存しており、ある局面で有効でも次の局面では有効性は減少、あるいは消失すると考えているからだ。この点で「日和見主義的なリフレ派」と自称している。 

正規雇用はたしかに増えたが…

まずざっくりとレビューすると、安倍政権下で起こった改善は、雇用と企業収益の大幅な増加である。自営業を含む総就業者数は249万人増、うち雇用者数は240万人増加(2017年4-6月期時点、2012年10-12月期対比、以下同様)、うち正規雇用は86万人増、非正規雇用は172万人増だ(厚生労働省)。

こう言うと「やはり非正規雇用の増加が正規雇用の増加の2倍ではないか。雇用の質が低下している」というお決まりの批判が飛び出す。

しかし、正規雇用が減少して非正規雇用が増えたのは2013-14年であり、2015年以降は正規雇用の増加が145万人(内男性42万人増、女性103万人増)、非正規雇用が33万人増(2017年4-6月期、2015年1-3月期比較)で、正規雇用の増加が圧倒的になっている。しかも女性の正規雇用の増加が男性の2倍強である点にも注目しておこう。

2013-14年に起こった正規雇用の減少は、1947-48年生まれの日本の団塊の世代が2013年前後に65歳を迎え、正規雇用から各種の非正規雇用形態に移行したことが、おそらくひとつの要因だ。安倍政権が正規雇用を減らすような施策をしたわけではない。

学卒年次から65歳までの労働力人口が漸減する日本で、就業者数、雇用者数ともに増えているというのは、労働参加率(=労働力人口/(労働力人口+非労働力人口))が上昇していることを意味する。日本の労働参加率は、2012年9月の59.0%を底に、17年8月の60.8%まで上昇した。特に、女性の参加率は同期間に3.4%ポイント上昇して51.5%になっている。

企業利益の顕著な増加については多言を要しないだろうが、経常利益は金融も含む全産業合計で2012年の59.4兆円から2016年の83.6兆円へと、40.6%の増加となった(財務省法人企業統計)。直近の2017年4-6月期も前年同期比で21.7%の増益が続いている。

こうした企業利益の増加を背景に株価も上昇基調にあるが、日経平均の株価収益率(時価加重平均値)は15.0倍(10月20日時点)だ。2013年後半以降おおむね15倍前後で安定しており、現状の日本株価に過熱感はみられない。

質的・量的緩和の魔法効果はなかった
以下ソース
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53310