これまで家を「買う」の理由のひとつに、単身や結婚したばかりなら賃貸物件もよりどり見どりだが、子供が生まれて家族が増えると、家を借りようにもファミリー向けの良い物件がない、ということが声高にいわれてきた。
しかし、これからの時代はどうやらだいぶ様相が変わってきそうだ。

理由は2つ。
ひとつが、今密かに進行している大都市内部における大量の空き家予備軍の存在だ。
そしてもうひとつが、都市郊外部における生産緑地制度の「指定解除」だ。

空き家は全国で820万戸にも及んでいるが、実は空き家が全国で一番多いのが東京都で、その数は81万7000戸にも及んでいる。
神奈川、埼玉、千葉を含めた1都3県になるとその数は200万戸を超え、なんと全国の空き家のうち4軒に1軒は、実は首都圏に存在していることになることを多くの人は知らない。

さらにこれを個人の持ち家の空き家(統計上では「その他」に分類)に絞り込むと、首都圏におけるその数は53万2000戸にもなる。
賃貸住宅の空き家の多くは、供給過剰を原因とするワンルームなどの賃貸マンションの空き住戸なのだが、実は家族で住んでいた個人の持ち家の空き家が最近では首都圏で急増しているのだ。

この流れは今後さらに加速しそうである。
というのも首都圏郊外を中心にこれまで、都心から郊外部に伸びる鉄道沿線に開発されてきたニュータウンと呼ばれる
開発分譲地に家を買った世代の人たちが、そろそろ「相続」を迎え始めたからだ。

彼らの子供たちの多くは、親の家を継いでそのまま住むという選択をせず、都心部に居住する傾向にある。
ということは、親が亡くなって相続した家に自分で住むことをせずに、その家を賃貸に出すか、売却をするという選択をすることになる。

首都圏には団塊の世代といわれる1947年から49年生まれの人たちが200数十万人もいるといわれる。
この世代の人たちも、東京五輪後の2024年以降は全員が後期高齢者になる。
つまり彼らが買い求めた郊外部の住宅が、今後短期間に大量に賃貸または売却に回ってくるのは確実なのだ。

また、都心部のファミリー型のマンションのなかには、戦中や団塊の世代が買い求めた物件も数多く存在する。
これらの住戸も今後はかなりの数が賃貸に拠出されるようになる。

これらの物件は、築年数は経過しているものの、もともとファミリー向けに分譲された戸建て住宅やマンションだ。
昔の賃貸マンションのような安普請のものではない。

広さも確保され、造りもしっかりしている部屋を、リーズナブルな賃料で借りるチャンスは今後首都圏でも確実に広がってくるはずだ。
ファミリー用の賃貸物件がない、などと嘆かずとも、向こう数年のうちに大量の供給が控えているのだ。

■ 生産緑地法

ファミリー向けの賃貸マンションやアパートが今後都市郊外部で大量に出てくることを後押しするのが、生産緑地法をめぐる動きだ。
生産緑地法とは、1974年に大都市圏の一部の市街化区域内における農地の宅地化を推進するために交付された法律である。

この法律は当初、指定された区域内にある農地に「宅地並み」の固定資産税を課すことで、都市部に残る農地を宅地化しようと考えられたものだった。
とにかく宅地が足りない時代に、少しでも農地から宅地に転用させようという目論見が法律制定の裏にあったのだ。

ところが、区域内においてもまじめに農業をやろうとする住民がいるとの声に配慮して、91年3月に生産緑地法は改正になり、92年度より生産緑地制度が導入された。
自治体に申請された農地で敷地面積が500平方メートル以上で期間中は営農に専念するなどの一定条件を満たせば、30年間にわたって固定資産税は農地扱いとし、相続税については納税猶予となったのだ。

対象となったのは、東京23区、首都圏、近畿圏、中部圏内の政令指定都市その他整備法で規定された一部の地域とされた。

現在この生産緑地として登録されている面積はどのくらいあるのだろうか。

国土交通省「都市計画現況調査」(2014年)によれば、14年3月末現在でその面積は1万3654ヘクタールにも及んでいる。
首都圏(1都3県)でこのうちの57%に当たる7747ヘクタール、これに愛知、大阪を加えると81%が該当することとなる。

ビジネスジャーナル 2017.08.06
http://biz-journal.jp/2017/08/post_20071.html

※続きます