老後を安心して暮らすために、定年までの蓄えはいくら必要? この永遠の問いには3000万円説、5000万円説、1億円説など諸説ある。いずれにせよ、多額の貯金が必要なのは確からしい。そんな中、「60才で貯金150万円でも大丈夫だった」と教えてくれたのが現在65才、経済コラムニストの大江英樹さん。貯金3000万円以下でも破産しない老後設計のコツを教えてもらった。

◆未知の老後を「見える化」しよう!

 まずは65才で3000万円必要という根拠から。

 総務省の調べによれば、高齢・無職夫婦2人の生活で必要なのは月約27万円。しかし、夫婦でもらえる公的年金の平均額は月約19万円。月約8万円の赤字は年間で約96万円に。95才まで、あと30年生きるとすると、約2880万円不足するので、その不足分として約3000万円が必要とされているのだ。ただしこれは、生活レベルによる。大江さんはこう語る。

「講演会などでは、老後までに3000万円も貯められない、と不安がる参加者がほとんど。でもそれは、具体的に退職金や年金がいくらもらえて(収入)、老後どのくらいのお金が必要か(支出)、知らないからなんです」

 大江さんは、証券会社に定年まで勤め、60才で退職した。しかし、父親が商売に失敗し、その借金を肩代わりしたり、娘2人を海外に留学させたことなどにより、持ち家があるとはいうものの、定年時の貯金は150万円しかなかったという。

 不安だった大江さんは、2つの疑問に対し、次の【1】【2】の具体的な数字を出そうと決めた。

【1】老後の収入
【2】老後の支出

【1】の老後の収入は、主に退職金と公的年金だ。退職金がいくらかは会社に聞けばわかるが、公的年金は、毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」を見ればわかる。ただし見方に注意が必要とは、定年した夫と暮らす社会保険労務士の井戸美枝さんだ。

「年金からは所得税や住民税が天引きされるし、社会保険料の支払いは老後も続きます。ですから、手元に残るのは、金額によりますが、ねんきん定期便に書かれた額より1割減くらいと考えましょう」

◆家計を縮小。それでも足りなければ働こう!

 固定収入を把握した大江さんが次に取り掛かったのは、【2】の支出(生活費)の“見える化”だという。

「定年前の2年間と定年後1年間だけ家計簿をつけたんです。これにより、定年前後で、洋服代・食費、趣味・交際費の3つが激減したことがわかりました。さらに、携帯代金を夫婦で見直して約半額にし、生活費を約4割削減しました」(大江さん)

 大江さんが生活費を34万3561円から22万1417円まで月12万円も減らせたのは、何にどれくらいかかっているかわかったことで無駄が見え、対策が立てやすかったからだという。

「会社をやめてゴルフに行かなくなったので軽自動車に買い替え、仕事絡みの年賀状も、スーツ代も不要に。生命保険をやめたのも、家計的には大きかったですね」(大江さん)

 一方、井戸さんも、ご主人が定年したのを機に家計を見直し、生活費を約3万円減らしたという。

「夫が定年後は、家にいる時間が増えたため、食費・光熱費が増えましたが、雑費や小遣い、服代・クリーニング代は大幅削減。生活費は月18万円程度あれば足りるようになりました」(井戸さん)

 公的年金が夫婦で約19万円とするなら、大江さんのように約22万の生活費だと月約3万円の赤字に。これなら、95才までの30年間に必要な補填額は1080万円になる。収入と支出を明らかにするだけで、3000万円もいらないことがわかるのだ。

 そして、定年時150万円でも大江さんがやっていけたもう1つの理由は、定年後も働き続けたからだ。

「30年もある長い“老後”に、趣味だけやっていてもつまらない。体が動くうちは働こうと思い、再雇用で半年働いた後に独立し、今の経済コラムニストという仕事を始めました」(大江さん)

 働いてみてわかったのは、働いているうちは常に現役、老後じゃなくなるということ。夫婦で月8万〜9万円働けば、冒頭で紹介した家計の平均的な不足分を補える計算になる。

「ファストフードやシルバー人材センターなど、60才過ぎても、探せば雇用はあります。なければ私のように、好きな仕事を始めるのも手。ただし、“大企業で働いてきたから、こんな仕事できない”などのくだらないプライドを捨てることが、老後の仕事選びには大切ですね」(大江さん)
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