>>2の続き

 ◇「仕事って面白い!」スイッチを入れられるか

 今回の調査を担当した国立女性教育会館の研究員、島直子さんは、新入社員を5年間追跡調査しようと考えた理由について「新卒者が最初に直面する職場環境が、その後のライフスタイルやキャリア形成を左右すると考えた。特に女性は、出産や育児によって制約を受けやすいので、そういったライフイベントの前の20代の早いうちに成長を先取りさせる必要があると言われているのです」と説明する。

 これには野村さんも同感だ。「特に女性は、出産などのライフイベントの前に『仕事って面白い!』というスイッチが入れば、出産、育児後もなんとか両立しようとできるんです」

 では、その『面白いスイッチ』を入れるのは何なのか。

 野村さんは「新入社員の時点で男性は『管理職候補』として鍛えられていく。一方、女性は総合職であっても男性上司がどう扱って良いかちゅうちょして、成長のチャンスを男性と同じだけ与えてもらえないケースが多いんです。入社時点では女性の方が優秀なのに、数年もたてば逆転する、などの話を多くの企業から聞きます」と語る。

 確かにアンケート結果にもそれは見て取れる。

 「なし→なし」派では、「新人はお客様のところには出ていけなくて、社内のサブ的な業務が多い。仕事を通じて何かを成し遂げたい、自己実現したいという意欲がなくなった」という声があった。

 逆に、「なし→あり派」では、管理職志向を持つに至った理由として、元々内勤だったのに外回りの営業にも同行させてもらえるようになり、常に新たな挑戦を与えられていることを挙げた人がいた。「あり→あり派」にも「任せてもらえる仕事の幅や責任が増えたことでさらに管理職志向は強まっている」という声が。

 野村さんは「管理職に打診された時、女性は『自信がない』と答える傾向がとても強い。幼いころからの男らしさ、女らしさの刷り込みもあって、職場のリーダーは男性の役割と思いがちなのです。そのため、入社後に仕事を任されないとやはり管理職は無理なのかと思ってしまう」と分析する。そして「だからこそ、むしろ男性よりも先に『面白いスイッチ』を入れてあげないと。『いつ辞めるかわからない』と女性を鍛えない男性上司の意識を変えることも必要です」とも。


 ◇女性の「やる気」をそぐのは誰か

 政府は「2020年までに指導的立場(管理職)に占める女性の割合を3割にする」との目標を掲げるが、達成は危ぶまれている。

 企業の採用担当者らがよく口にする言葉として、「管理職を希望しない女性が多い」「女性は入社時にいくら優秀でも、その先、男性ほど伸びない」というのがある。

 しかし、今回の17人の「入社2年目」の女性の声を集めている途中、「入社3年目」の女性(25)のこんな話を聞く機会があった。

 彼女の勤務先では2年3カ月前、男女約20人ずつ、合計約40人が総合職として入社した。入社2年目に全国転勤型(つまり将来の管理職候補)か、地域限定型かの働き方を選ぶという。

 「女性社員は入社当初、半分の約10人が全国転勤型を希望していたのに、2年目には5人に減りました。一方、男性は全員が入社時も2年目も全国転勤型を希望しました。新人研修の時は、女性の方がずっと自分の意見を述べるしっかりした人が多かった。男性は学生気分が抜けていないように見えた。ところが仕事を始めると男性の方が仕事を任されるようになり、徐々に逆転していく。女性はお茶出しや消耗品の買い出しなど、男性社員はほとんどやらない業務をやらされた。男性はどんどん自信をつけていき、女性は『自分は仕事ができない』という錯覚に陥るように思った」と打ち明ける。

 彼女は今も「管理職志向はある」と言いつつも、男女社員の扱いの違いを体験したことで、「ほかの男性同期社員に置いて行かれる気分や焦りはありました」と悔しい思いを語るのだ。

 また、今回のアンケート結果では、「なし→なし」派でも「起業したいから管理職志向はない」「管理職より優秀なプレーヤーでい続けたい」など、入社2年目の女性たちはそれぞれにキャリアを真剣に考えていることが分かった。

>>4以降に続きます