慶應義塾大学経済学部の金子勝教授は、ロイターとのインタビューで、これまでのアベノミクスでは古い産業の救済に比重がかかり、新しい産業や雇用があまり生み出されていないため、新たな世界的ショックが発生すると痛手が大きくなるとの見解を示した。

そのうえでヘリコプターマネー的な政策が選択される可能性があるが、財政赤字は減らず、成長力も低いままの状況になるとの見通しを示した。

主なやり取りは以下の通り。

──アベノミクスと日銀の非伝統的金融緩和について。

「古い産業を救済する政策ばかりで、前向きな政策がない。日本は過去30年余りの間に金融機関の不良債権問題、原発事故を起こした東京電力<9501.T>の問題など、経営者がだれも責任を取らない中で、公的資金を投与してきた。この結果、産業構造の転換が進まなくなっている」

「日銀のQQE(量的・質的金融緩和)は、本来は2年で2%の物価目標と、短期的な政策で終わるはずだったのに、目標にこだわり続けてここまできた。しかし、FRB(米連邦準備理事会)もECB(欧州中央銀行)も出口に向かい、日銀も否応なしに出口の崖に向かい始めているとみている」

「日銀は他国の政策にかかわりなく、超緩和政策の維持方針を変えていない。今後、さらに緩和を続けて、引き返せない金額になる前に、できるだけ早く、ゆっくりと正常化すべきだ」

──外的ショックを受けた場合、日本経済はどうなるのか。

「今回は、銀行と企業の融資関係で日本経済全体のシステムを壊すパターンではなく、内部留保が少なくなって全体の企業価値が低下し、景況感が悪くなっていくというパターンが想定される。(株や不動産に投資してきた)富裕層にダメージが来るだけではなく、債務を抱える個人も苦しくなり、長くよどんだ不況が表面化してくるだろう」

「今は、金融緩和で資産バブルを起し、円安による株高で内部留保を増やして利益を水増ししている状況だ」

「そこが、何らかのショックで、または、ショックがなくても、はげ落ちてきたときに、筋肉や臓器も衰えているのに、(金融緩和によって)血液(マネー)だけどんどん流しても効果が上がらない。それは当然のことだ」

──政府は、どのような政策を選択すると予想するか。

「日銀はYCC(イールドカーブコントロール)を量的緩和中心のQQEに戻し、政府は財政を拡大させるだろう。しかし、効果は限定的ではないか」

「いずれ日銀の保有国債を永久債に換え、金利をゼロにして、利払いを凍結することも検討されるだろう。これは民間企業で言えば、債務を集めた旧会社と借金なしの新会社に分離する新旧分離と同じ発想だ。ただ、新会社が黒字になればいいが、今の日本経済では、財政赤字が増大したままになり、問題の根本的解決にならない」

「アベノミクスを実施している間に、新しい産業と雇用を生み出す努力をすべきだったが、実現していない。今のままで財政拡張を続けても、ヘリコプターマネーのように最終的にはなってしまう」

「18世紀の英国はコンソル公債を増発して戦費を調達したが、その後は、産業革命と植民地の拡張でシティが金融の中心になり、成長を遂げることができた。しかし、日本は成長の見通しが立たない中でヘリマネをやってしまうと、後々、立ち上がれなくなる」
以下ソース
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-7970.php