変化が少ない市場と認識されていた家電の世界に新しい動きが広がっている。

生活用品大手のアイリスオーヤマが大型白物家電を投入するなど、新規参入が出てきたことに加え、量販店がPB(プライベート・ブランド)製品の取り扱いに力を入れ始めた。

一方、家電ベンチャーが手がけた2万円の高価格トースターが大ヒットするなど、強い個性を持った製品の売れ行きも好調だ。大量生産・大量消費が中心だった日本市場にもようやく成熟化の波が押し寄せている。

アイリスオーヤマは今年4月、大型白物家電に参入すると発表。第1弾としてルーム・エアコン4機種を投入した。同社は2009年に家電市場に参入したが、小型家電など分野を限定していた。エアコン販売をきっかけに、今後はあらゆる分野の製品を手がける総合家電メーカーを目指すという。

同社が販売するルーム・エアコンの価格帯は6万9800円から9万9800円。もっとも特徴的なのは上位機種に無線LAN(Wi-Fi)と人感センサーを搭載した点である。

人感センサーは人の有無を自動的に検知して運転をコントロールする機能だが、これまでは各メーカーを代表するような高価格帯の製品に搭載されることが多かった。またWi-Fiを使ってスマホからエアコンを操作する機能も、専用のアダプターが必要など、何かと面倒だった。

これに比べて同社の製品は専用のアプリをスマホにインストールすれば、すぐにスマホからの制御が可能となる。また、睡眠時の室温を1時間単位で調整できるなど、機能もきめ細かい。

これだけの機能が付いて9万9800円という価格設定はコスト・パフォーマンスを強く意識したものといえる。

一方、下位機種については、ひたすら低価格を狙うという設定にはなっていない。同社は「なるほど家電」というキャッチフレーズを用いているが、価格のみを追求するというよりは、特定の製品カテゴリーにおいてコスト・パフォーマンスを打ち出す戦略と考えられる。

フル・ラインナップで勝負しなければならない既存の大手電機メーカーでは選択しづらい手法であり、生活密着型のメーカーとして成長してきた同社ならではの価格戦略といってよいだろう。

エアコンや冷蔵庫といった白物家電は、技術としてはすでに確立したものであり、大きなイノベーションがあるわけではない。このため新規参入する場合でも、それほど多くの投資は必要ない。開発や製造を担当する要員さえ確保すれば容易に新製品を投入できる。

アイリスオーヤマは2013年に大阪R&Dセンターを開設。シャープやパナソニックなど大手電機メーカーの出身者を積極的に採用してきた。

一般的にこうした白物家電は、製品開発に2年程度の期間を設定することが多いが、同社がエアコンの製品化に要した期間は約1年である。製品ラインナップを拡充し、総合家電メーカーを目指す方針を掲げていることから、今後も次々と新製品を投入してくる可能性が高い。

中略
アイリスオーヤマは、収納ケースに始まり、インテリア用品、園芸用品、ペット用品など家庭用プラスチック製品の分野で、このコンセプトに基づいたヒット商品を連発。事業を軌道に乗せ、満を持して家電の分野に本格進出するまでになった。決して思いつきや勢いで参入しているわけではない。

テクノロジーの進歩により、これまで高い付加価値があると思われていた技術の多くはコモディティ化している。この流れは自動車など、日本のコア産業にも次々と及んでくるだろう。

製品や技術のコモディティ化は、多くの場合、招かれざる事態として捉えられることが多いが、一方ではアイリスオーヤマやバルミューダのような、成熟社会型の新しい産業を生み出す原動力にもなる。

技術のコモディティ化や新興国によるキャッチアップは、先進国にとって避けて通ることができない現実であり、これを批判しても意味はない。消費主導型の新しい製造業が、日本経済の柱となることを期待したい。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52262