「あかん。日本のビジネスマンは。着るものに関心を持っているようには思えない」。こう一喝するのは伊藤忠商事の岡藤正広社長だ。繊維部門の出身で、「アルマーニ」や「トラサルディ」など海外の著名ブランドと次々に提携、ブランドビジネスを育て上げた経験を持ち、ひところは自宅にスーツやジャケットが数百着あったという。「異能の経営者」とも称される岡藤社長に、ファッションとビジネスについて聞いた。

 ――日本のビジネスマンのファッションをどうご覧になりますか。

 「これがあかん。日本のビジネスマンは。例えば、イタリアではみんなおしゃれな服を着ている。靴もね、黒だけではなくて、茶色やコーディネートに合わせておしゃれなものを選んでいる。悪いけど、街を歩く日本のビジネスマンを見ても、着るものに関心を持っているようには思えないんだよね」

 「あれ、なんでなんかなあ。その昔、『男が着るものにチャラチャラするのは……』、ということあったでしょ。今のビジネスマン、いまだにそう思っとるんかな。昔のような『着るものにお金を使うことを潔しとしない』、そんなのがまだ残っているんじゃないかな。でも、若い人はそうじゃなくなったでしょ」

 「けど、ほんとうに、なんで服装に関心持たないんやろうなあ。余裕がないんやろか。ぼくは結構気を使っている。今の春夏物だって20着以上買っているんだよ。スーツは11着、これは前からイタリアでオーダーしていた。それとジャケット。(ベルギーの高級紳士服地ブランドで、日本法人が伊藤忠子会社の)スキャバルでつくったのが7着くらいあったかなあ。ほかのメーカーのやつも5着くらいあるからね」

 「だからもう、いままでのやつは全部じゃないけど、専門業者に引き取ってもらった。30万円くらいのやつで、ほとんど着ていないやつが3000円やで。小型トラック1台分になるくらい、いろいろ引き取ってもらったけど全部で10万円。もう、『へー』って感じや(笑)」

ファッションだけにとどまらない、デザイン・ブランドの劣後
「いつも引き合いに出す話があって、東北のあるメーカーがフランスの高級婦人服ブランドに生地を納めていたんだけど、1メートルあたり5000円の生地が、スーツになると150万円。その生地がなければそのブランドの服はできないのに、1着分3メートルとして生地のコストは製品のわずか1%。こういうところが日本のファッションビジネスの壁なんですよ」

 「いい素材をつくって、きちっとした素晴らしい縫製もできるけど、ブランドという、ソフト面でのギャップというのが、なかなか追いつけない。それは繊維・ファッションだけじゃない」

 「例えば昔なら、海外の一流ホテルにあるテレビは、ソニーとかシャープやパナソニックでしたよね。それが今は違って、韓国のサムスン電子、LG電子」

 「だけど、サムスン、LGというのも基本的にはアセンブリーで、じゃあ、何が評価されているのかといったら、そのデザインとブランドなんですよね。日本のファッション産業と同じことが、ほかの産業でも起こっているんです」

 「これは日本人の欠点、弱点なんですよね。これを何とかできないかなあと。これだけ技術があって、素材だけじゃなくって、半導体から何から、いろんなものが世界に出ているけれども、しょせんは部品なんです」

 「アセンブリーメーカーはそれがなければやっていけないのに、安く買いたたいていく。それで、日本の電機メーカーは、みんな苦しんでいる。サムスンなんか、いつのまにかブランドがよくなっとる。『それはなぜ?』ということやね」

 「ものづくりを一生懸命やる、というのも大事だけれども、やっぱり、デザインとかね、ブランドとか、そういったものが、日本の場合は遅れているのではないか、という気がするね」

 ――どうしたら感性を育むことができますか。

 「問題は感性だけでもないんだよ。同じアジアでね、韓国が日本を追い抜いているわけやから。『なぜそうなったのか』ということを研究してやれば、日本もできると思う。別に日本人の感性が衰えたわけやないからね」

以下ソース
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO15933840R00C17A5000001