青山商事、AOKI、コナカ……、紳士服大手が多角化戦略に乗り出している。新たな収益源は外食にはじまって靴修理、結婚式場、英会話教室などなど、「スーツ屋の商法」は本当に成功するか。
スーツを脱ぎ捨て多角化する理由
紳士服市場の長期低落傾向に歯止めがかからない。総務省の家計調査によると、1991年のピーク時に2万5000円を超えていた1世帯当たりのスーツ(背広、ネクタイ、ワイシャツの合計)の年間支出金額は、2016年に6959円と3割以下にまで縮小した。つまり国内の「スーツ」の市場規模はこの25年間で7割減となっている。
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決定的な要因は、主たる購買層だった「団塊の世代」が2010年を境に60歳の定年を迎えたことにある。さらに、追い討ちをかけたのが夏の「クールビズ」の定着だ。市場の急激な縮小により、スーツ量販店が得意としていた郊外型店舗での大量販売というビジネスモデルは見直しを迫られている。

ところが、こうした厳しい市場環境にもかかわらず、最大手の青山商事の業績は堅調だ。その背景には「多角化」の成功がある。同社は、団塊世代の大量リタイアを見越して、スーツ以外のビジネスを積極的に広げている。11年には子会社を通じて焼き肉店「焼肉キング」のフランチャイズチェーン(FC)展開に乗り出し、12年にはカジュアル衣料品店「アメリカンイーグルアウトフィッターズ」の出店も始めた。15年1月に策定した3年間の中期経営計画では、非スーツ部門の売上高に占める構成比を26%に引き上げる目標を掲げている。

少子化やファッションのカジュアル化も加わり、今後もスーツ需要の先細りは避けられない。青山理社長は2015年の中期計画発表の際、こうした多角化を進める理由について「次の50年に向けた最初の3年間の成長戦略だ」と説明した。

その後も同社は「脱スーツ路線」にアクセルを踏む。15年末には靴修理や合い鍵などを手掛ける「ミスターミニット」を運営するミニット・アジア・パシフィックを買収した。ミスターミニットは日本とアジア太平洋地域で約560店を展開しており、事業多角化と同時に海外市場の開拓という二兎を狙う買収として、脱スーツ路線を鮮明に印象付けた。

青山商事を追う業界第2位のAOKIホールディングスは、「多角化」については青山商事の先を行っている。14年にはブライダル事業「アニヴェルセル」を子会社化。同年2月、横浜市のみなとみらい地区に国内最大級の結婚式場を開業するなど、全国で展開を加速している。さらに子会社の「ヴァリック」ではカラオケや複合カフェも展開する。非スーツ事業は総売上高の約4割を占め、青木彰宏社長は「将来は非スーツの割合を5割に」と意気込む。

業界3位のコナカは、「学童保育」のニーズに対応する英会話教室「Kids Duo(キッズデュオ)」、バイリンガル幼稚園「Kids Duo International(キッズデュオインターナショナル)」を展開している。共働きを選ぶ子育て世代の増加を見越した事業だ。13年にはとんかつ店「かつや」に加えて、16年夏からはから揚げ専門店「からやま」を出店するなど外食事業にも積極的だ。また、4位のはるやま商事は今年1月、純粋持ち株会社に移行した。スーツやカジュアル衣料の子会社をぶら下げる経営形態とすることで、今後は非スーツ事業としてメガネや靴など服飾雑貨の本格展開も視野に入れる戦略だ。

紳士服大手各社が先を争うように取り組む事業多角化は、スーツビジネスが限界を迎えつつあることを示している。なかにはアパレル会社が外食事業に参入することに突飛な印象をもつ読者がいるかもしれないが、郊外型店舗と併設することで相乗効果を引き出す狙いがある。各社とも体力がある間に新たな成長分野を確立したいという思惑があるのだ。
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