1日にスタートした都市ガス小売り全面自由化。今後、家庭用ガスだけでなく業務用ガスの市場も各地で競争が激しくなりそうだ。中でも関西では、関西電力が、業務用で大阪ガスよりも最大25%安い料金メニューを提示して攻勢をかける。両社の競争は単純な電気とガスの安値供給にとどまらない。小口需要家だけでなく、すでに自由化対象だった大口需要家も巻き込み、設備導入や保守、生産改善や省エネルギー提案など、顧客に寄り添うエネ関連サービスの創造でつばぜり合いを繰り広げている。

 ガス小売りの全面自由化は、年間使用量10万立方メートル未満の工場や店舗などの小口需要家も対象。関西では関電が自前のガス製造設備を持ち、大口需要家向け販売で大ガスと競合してきた経緯もあり、首都圏や中部に先行して一足早く、顧客争奪が本格化している。

 関電の岩根茂樹社長は「業務用ができるのは非常にチャンスだ」と話す。関電は2000年から大口需要家向けガス販売をはじめ、02年には大阪ガスの導管を借りて販売する「託送供給」にも乗り出した。その後、自由化範囲は広がったが、それに合わせて顧客を増やすのは困難だった。

 理由の一つが、24時間の緊急対応体制や定期検査などの“需要家保安業務”の存在だ。従来は小売事業者に義務づけられ、関電は既存の電気保安体制に機能を課してきたが、体制強化に限界があった。今回の小売り全面自由化を機に、緊急保安は大ガスら導管事業者の責任に変わったのは大きい。

 関電が「価格面で十分に対抗できる」(岩根社長)と、業務用で安い価格を打ち出せたのもこのためだ。商業施設へのガス空調提案や中規模工場への営業にも本格的に乗り出すことができ、戦線は拡大する。

 電力の小売り全面自由化とは一転し、守勢に立つ大阪ガス。業務用空調に関しては、これまでのメンテナンス実績や遠隔監視技術を訴求する。大ガスの本荘武宏社長は「故障を事前に予知するなどのサービスと組み合わせれば、選んでもらえる」と話す。

 工場についても、大ガスは長い期間、個別に信頼関係を築いてきた。かつて重油からの燃料転換を提案。客先に合わせて生産性向上と省エネを狙うバーナーを開発、提供してきた実績がある。工場では関電が、電気の省エネや改善提案を進めてきた。お互い強みとする分野で顧客の懐に入り“役立ち”を提供してきた。競争要件は価格だけとは限らない。

 自由化時代、両社ともに力を入れるのは、工場やビルのエネ設備で、建設・運転・保守を一括で請け負うユーティリティーサービスだ。設備を関連会社が保有する枠組みの提案は、毎月の光熱費にユーティリティー費用が乗せられる。顧客にとって初期費用が抑えられる利点がある。

 その延長線上にあるのが再開発地区や大型複合施設。「エネルギーを“面”で提供したい」(大ガス幹部)と案件の獲得を狙う。両社の提案はこれまで電気、ガスなど各社が得意なエネルギーに比重を置き、場合によって“痛み分け”の結果になることもあった。

 一定地域ですべてのエネ供給を担えるなら、多くの選択肢が創造でき、効率化の可能性も広がる。未利用エネの活用やエネ融通、情報通信技術(ICT)活用など、スマートコミュニティー(次世代社会インフラ)に通じる技術で差別化が図れる。今後、エネ会社間の提案力が競われることにもなりそうだ。

日刊工業新聞電子版 4/21(金) 15:30配信
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