EUにはその価値があるのか、あるいは終わるべきなのかについて問うムービーを、科学系アニメーションムービーで知られるKurzgesagtが公開しています。

2016年6月にイギリスで国民投票が行われ、EU離脱派が勝利を収めました。この結果を受けて政府は正式にEU離脱の手続きを開始しています。

イギリス離脱後のEU参加国は27カ国。EU圏内の人口は中国の13億8000万人、インドの13億2500万人に次ぐ4億5000万人です。

国内総生産(GDP)で考えるとアメリカの17兆9000億ドル(約1950兆円)に次ぐ14兆2000億円(約1550兆円)で、
第3位の中国は11兆ドル(約1200兆円)。単一のマーケットとしては世界最大級の規模です。

しかし、もともとEUは「平和」を目指して生まれたものでした。ヨーロッパは昔から戦争続きで、
特にドイツとフランスは何世紀にもわたってライバル関係にありました。

ドイツでは「世代を超えた怨恨」を意味する「Erbfeindschaft」という言葉があるほどだそうです。

しかし、ヨーロッパの人々は第二次世界大戦を経て、軍事力のバランスに基づいたものではない「平和」を求めるに至ります。
ヨーロッパの経済・政治・民族が結びつけば戦争は実行不可能になるだろうし、戦争を考えることもなくなるだろうという発想です。

この結果、EUは前身も含めると70年にわたってヨーロッパに平和をもたらすことに成功しました。

圏内を自由に旅できたり、通信量が安くなったりと、EUは「平和」以外にもいろいろな利益をもたらしています。

Microsoftに対して独占禁止法違反による是正を命じたのをはじめ、AppleやFacebookといった国際的大企業にも立ち向かってきました。

科学分野の面でも大きな力を発揮しており……

EU諸国で協力して研究を行うなどして積極的に科学を振興した結果、
研究者人口でみると世界全体の5%にすぎませんが、研究のアウトプットは25%と大きな成果をあげています。

中略

経済面に目をやると、EUはそれぞれの国の経済をブーストさせるような効果を発揮しています。

新規加盟国ではGDPが12ポイント向上したという報告もあります。

また、経済やインフラが貧弱な地域には毎年数十億ユーロ(数千億円)規模の経済投資や開発支援を行っています。

しかし、経済力も社会保障関連・税・労働に関する法律も異なる国々を1つに束ねるというのは難題です。

賃金を例に取ると、時給4ユーロ(約460円)から時給40ユーロ(約4630円)まで大きな幅があります。

この通貨もまた問題の1つで、2010年にはギリシャ経済危機の影響がユーロ圏に広がりました。

「1つの通貨のもとに経済政策がバラバラのものを統一するのは無理だ」というのがKurzgesagtの主張。
解決方法は何年もかけて練られていますが、いまだに解決法は見つかっていません。

Kurzgesagtは「EUには欠陥がある」と指摘しつつも、ヨーロッパを世界の中でも力のある存在にしていることも事実だと認めています。

前述のように、科学の面では大きな成果を挙げており、また世界第2位の「経済大国」であり、世界最強クラスの軍隊も保有しているからです。
求められている平和、そして安全を提供してくれているというのは重要なポイントです。

というわけで、Kurzgesagtは「EUには価値がある」という立場。もちろんEU市民の中には「EUはいらない」と考えている人も少なからずいますが、
そういう人に対して「敵ではなく、同じEUという船に乗っている仲間だから」と、EUの将来について事実に基づいた議論をしようと呼びかけています。

Kurzgesagtは普段は科学に関する興味深いアニメーション映像を作ってYouTubeで公開しており、Patreonで最低月額2ドル(約220円)からの活動支援を送ることができます。

http://gigazine.net/news/20170414-european-union-worth/