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[東京 3日 ロイター] - 3月日銀短観で「人手不足」の深刻化が鮮明になったが、それを補うはずの企業の情報化(IT)投資の伸びは鈍い。この「ナゾ」の背景には、数年前のIT投資が成果に結びつかず、空振りに終わったトラウマがあるようだ。

このまま投資が停滞すれば、IoT(モノのインターネット化)で米独などに水を空けられ、今後の日本企業の国際競争力にとって致命的な打撃になりかねないと政府部内に危機感が高まってきた。

<人手不足は深刻化>

今回の短観では、バブル末期の1992年以来の人手不足感となった。また、コスト増を売り上げ増でカバーできず、2017年度は全規模・全産業で増収減益見通しとなっている。

こうした状況では、省力化や合理化投資を中心に設備投資は強まると期待されてきた。特に高付加価値を狙ったIoTや人口知能(AI)の本格普及時代を迎えて、情報化投資は急増するとの予想が、専門家の中でも根強くあった。

実際、日銀短観の設備投資を見ると、ソフトウエア投資が16年度の2.2%増(全規模合計)から17年度には3.1%増にやや伸びを高めた。中でも中堅製造業や中小企業は、2桁増を見込んでいる。

日本政策投資銀行は全国設備投資計画調査において、2年前から10年ぶりに情報化投資の調査を開始した。

その結果、16年度の情報化投資は全産業で前年比26.1%増と設備投資全体の伸び率の同17.8%増を上回った。特に非製造業では36.4%と高い伸び。「人手不足とIT化の流れが、情報化投資を押し上げている」(産業調査部)と見ている。

<日本企業のIT投資意欲弱く、生産性伸びず>

ただ、2010年代前半の日銀短観ソフトウエア投資と比較すると、伸び率の差は歴然だ。11年度が6.1%、12年度が4.8%、13年度が13.5%と2桁増の年もあった。ところが、ここ数年は2─3%にとどまっている。

内閣府は、今回の日銀短観の17年度計画について、ここ数年と比べれば発射台としては悪くないが、水準としてまだ足りないと指摘。「情報化投資が低調であれば、日本は第4次産業革命に乗り遅れかねない」と危機感を示している。

この1年間の情報化業界の受注額を経済産業省の「特定サービス調査」でみると、情報サービス受注額は、今年1月が前年比0.7%増。過去1年間をならせば、ほぼ伸び率はゼロ%。

内閣府は、背景の1つに企業の投資意欲の減退を指摘する。13年ごろまでは情報化時代を迎えてIT投資も活発化していたが「経営陣と中間管理職の権限見直しが遅れ、情報化投資の効果が生産性の向上に結びつかず、投資しても無駄というトラウマを生んだ」(内閣府関係者)とみている。

また、総務省が16年2─3月に大・中小企業600社を対象にIoT導入に関して調査したところ、15年の実績値は米国が40%台と群を抜いて高かったが、それ以外の英、独、日、中、韓は20%台で横並びだった。

ところが、20年の計画値を聞くと、日本以外は70%超の水準まで上昇するものの、日本は40%台にとどまり、劣後することが明白になった(16年情報通信白書)。

こうした情報化投資の遅れは、生産性と競争力の格差に直結する。経済協力開発機構(OECD)調査によると、先進7カ国の労働生産性の比較で日本は最下位。15年時点で日本は、米国の6割強の水準にとどまり、90年代以降の日米格差の拡大傾向に歯止めがかかっていない。

第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は「最近のIT投資は攻めの投資のはずが、いつのまにか守りの投資になってきているのではないか。IT活用の仕方や組織が柔軟性に欠けるという、日本企業に特有の課題がありそうだ」と指摘する。

その上で「マクロの設備投資金額が増えればよいという発想から、投資が生産性上昇にどの程度寄与する内容なのかを重視すべき。エコノミストや政策当局者の注目点が、切り替わっていくことも期待したい」としている。

(中川泉 編集:田巻一彦)
2017年 4月 3日 7:21 PM JST

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