スリーラインディフェンス(3ラインディフェンス)は、実務においては以下のような弱点が指摘されています。

1. **役割の重複と境界の不明確さ**
 第1線(現場業務・経営者)と第2線(リスク管理やコンプライアンス部門)の間で、どのリスクや問題に誰が責任をもつのかが明確に定義されていない場合があります。結果として、同じリスクに対して対応が重複したり、逆に誰も対策に踏み切らない「抜け穴」が生じることがあるのです。これにより、効率の低下や統制の不備が発生しやすくなります.

2. **第2線の独立性・客観性の不足**
 リスク管理・コンプライアンス部門は、しばしば経営陣に近い位置づけとなるため、業務執行部門への配慮や経営側の意向が影響し、客観的なリスク評価や厳しい指摘が難しくなる場合があります。客観性が欠けると、指摘事項が十分に改善されなかったり、リスクの深刻度が正しく認識されない恐れがあるのです.

3. **情報伝達の遅延や断絶**
 各ライン間での効果的なコミュニケーションは、リスクの早期発見や迅速な改善に不可欠です。しかし、現場で発見された課題が即座に第2線や第3線に共有されなかったり、改善策が十分に反映されなかったりすることで、リスクが長期間放置されるケースが見受けられます。こうした遅延は、リスクの拡大や組織全体のガバナンス低下を招く可能性があります.

4. **柔軟性・適応性の欠如**
 スリーラインディフェンスは枠組みとしては整然としていますが、急激な環境変化や新たなリスクに対しては、定められたプロセスや役割分担が足かせとなる場合があります。従来の仕組みでは、突発的な事象や複雑なリスクを迅速に捉え、対応する柔軟性が不足しているという批判があります.

5. **サイロ化のリスク**
 各ラインが固有の役割を持つ一方で、部門間の連携が不十分になると、情報や知見が部門内に閉じこもってしまう「サイロ化」が進む可能性があります。この状態では、全体としてのリスク管理やガバナンス体制の強化が難しく、横断的な視点で問題に対処できなくなります.

6. **事後的・反応的な対応の傾向**
 特に内部監査(第3線)は、定期的な監査スケジュールに基づいて実施されるため、問題が発生した後に改善策を講じるという事後対応に終始しがちです。より早期に問題を未然に防ぐためのプロアクティブな仕組みとしては、十分な機能を発揮できないケースも見受けられます.

総じて、スリーラインディフェンスは組織の内部統制およびリスク管理に一定の枠組みを提供しますが、役割の重複や情報の断絶、柔軟性の不足など、実務上の課題も抱えています。こうした弱点を補完するためには、各ライン間の役割分担の再検討、連携体制の強化、そしてより柔軟で横断的なリスクマネジメントアプローチの導入が求められます。近年、IIAなどの機関は「3つのラインモデルの更新版」を提案し、従来の枠組みの問題点を解消する取り組みを模索しているため、最新の動向にも注目する価値があります.
https://www.iiajapan.com/leg/pdf/data/iia/2020.07_1_Three-Lines-Model-Updated-Japanese.pdf